体の表面から芯までじわーっと温まり、東京からの旅路で疲れていた体が一気にほぐれていくのを感じた。2歳の男の子も、落ち着いて湯船に浸かっている。
「ぼく、熱くない?」と聞いてみると、「あつくないよ!」と元気に答えたが、やがて「もうでたい!」と立ち上がったり、また中に入ったりを何度か繰り返した。
おばあちゃんと、「2歳ってイヤイヤ期だから、扱いが難しいですよねー!」としばし盛り上がる(うちの娘も2歳だ)。そのうちに、私ものぼせてきたので、もう切り上げることにした。
脱衣場では、数人のおばあさんたちが、楽しそうにおしゃべりをしていた。
その一人が、「あなたどこから来たの?」とまた話かけてきたので、「ええと、東京です」と答えた。
すると、薮から棒にもう一人のおばあさんが、「東京ねえ! あなたねえ、諏訪って最高よ!」と自慢げに一人が言う。
「ちょっと冬は寒いけど、空気がいいし、温泉もあるし。なにしろお風呂にくれば、誰かしらいるんだから。ねえ、こんなとこってないでしょ?」
そうですね、確かに景色もきれいだし、とってもいいところだと思います! と答えると、おばあさんたちは満足げに頷いた。
どうやら、地元の人々にとって、浴場はコミュニケーションの場のようだ。だから、みんな「こんにちは」と挨拶するんだなあ、と今更ながらに思った。

川内 有緒