未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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ゲストハウスと公共温泉巡りのススメ

下諏訪で見つけたホカホカな旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.88 |10 April 2017
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#5「諏訪は最高!」

可愛らしい浴場の真ん中に楕円形のお風呂が特徴の菅野温泉。男湯の方はどんな雰囲気なのか気になる。

 体の表面から芯までじわーっと温まり、東京からの旅路で疲れていた体が一気にほぐれていくのを感じた。2歳の男の子も、落ち着いて湯船に浸かっている。

「ぼく、熱くない?」と聞いてみると、「あつくないよ!」と元気に答えたが、やがて「もうでたい!」と立ち上がったり、また中に入ったりを何度か繰り返した。

 おばあちゃんと、「2歳ってイヤイヤ期だから、扱いが難しいですよねー!」としばし盛り上がる(うちの娘も2歳だ)。そのうちに、私ものぼせてきたので、もう切り上げることにした。

 脱衣場では、数人のおばあさんたちが、楽しそうにおしゃべりをしていた。

 その一人が、「あなたどこから来たの?」とまた話かけてきたので、「ええと、東京です」と答えた。

 すると、薮から棒にもう一人のおばあさんが、「東京ねえ! あなたねえ、諏訪って最高よ!」と自慢げに一人が言う。
「ちょっと冬は寒いけど、空気がいいし、温泉もあるし。なにしろお風呂にくれば、誰かしらいるんだから。ねえ、こんなとこってないでしょ?」

 そうですね、確かに景色もきれいだし、とってもいいところだと思います! と答えると、おばあさんたちは満足げに頷いた。

 どうやら、地元の人々にとって、浴場はコミュニケーションの場のようだ。だから、みんな「こんにちは」と挨拶するんだなあ、と今更ながらに思った。

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未知の細道 No.88

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。