未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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ゲストハウスと公共温泉巡りのススメ

下諏訪で見つけたホカホカな旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.88 |10 April 2017
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#8神田川さながらに

 外に出ると、すでに街には夕闇が訪れようとしていた。あちこちに料亭やスナックがあり、ポツン、ポツンと明かりが灯り始めている。かつては宿場町として相当に賑わっていたんだろうなあと思いながら、地図を広げて歩みを進める。

 ちょうどお腹が空いてきたので、お勧めのガレット屋、Café Tacにちょっと寄り道。パリの裏通りのカフェのような佇まいの店内に入ると、親切なご主人が、「これ、どうぞ」とオレンジジュースをサービスで出してくれた。ここら辺の人たちは、誰も彼もが優しいのは、いにしえの宿場町文化の名残だろうか。

 ボリューム満点の本格的なガレットで腹ごしらえが済むと、本日最後の目的地、「新湯」に向かった。旦過の湯の脱衣場で、「私がここら辺で一番好きなのは『新湯』。あの雰囲気が好き!」と熱烈に勧めてくれたお客さんがいたのだ。

 月を見ながら坂道を下ると、ぽっと明かりがついた一角があり、お風呂セットを持った男の人が建物から出てきた。看板には、「新湯」。『神田川』さながらの懐かしい風景にしばし見入った。

 名前からすると新しそうだが、『新湯』の創業は昭和2年(旦過の湯の鎌倉時代に比べたら確かに新しい)。ここも、入り口には番台と下駄箱あった。お金を払いながら、そういえばここまでの3軒は、すべて入浴料金が230円だったと気がついた。料金さえも昭和で止まっているみたいだ。

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未知の細道 No.88

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。