未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
94

駿河竹千筋細工唯一の女性職人

竹ひごで描く曲線美に惹かれて

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.94 |10 July 2017
この記事をはじめから読む

#3グッドタイミング

神谷さん作の虫かごと、篠宮康博さん作の団扇置き。

 神谷さんのお父さんは会社員、お母さんは主婦で、職人の世界とは無縁だったから、最初は「何を言ってるんだこの子は?」と戸惑っていたそうだが、娘が本気だと知ると「やりたいことがあるならやればいい」と背中を押してくれたという。

 神谷さんは幸運でもあった。18歳の普通の女の子が職人になりたいといっても、受け入れ先を探すのは難しい。師匠になる職人は、自分の仕事をしながら、何もわからない若者に技術指導しなくてはいけないからだ。その負担は決して小さくない。

 ところが、神谷さんが高校を卒業する年から静岡市の「クラフトマン・サポート事業」が本格的にスタートしたのだ。これは伝統工芸の後継者育成を目指すもので、師匠に補助金を出すことで負担の軽減を図っている。

 この制度を使って神谷さんを受け入れたのが、篠宮康博さん。15歳からこの仕事をしているという匠だ。ベテランの職人というと、武骨で不愛想、というイメージがあるが、いかにも穏やかで優しい笑顔の篠宮さんのもとで、神谷さんはイチから手ほどきを受けた。篠宮さんはすぐに手ごたえを感じたそうだ。

「最初から落ち着いて仕事をしていたからね。この子は職人に向いてるなと思いました」

高校2年生のときに、たまたま伝統的工芸品の全国大会が静岡で開催されたこと。
高校3年生のときに、ちょうど「クラフトマン・サポート事業」が始まったこと。
ふたつの偶然が、神谷さんを駿河竹千筋細工の世界に導いたのだ。

このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.94

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。