神谷さんのお父さんは会社員、お母さんは主婦で、職人の世界とは無縁だったから、最初は「何を言ってるんだこの子は?」と戸惑っていたそうだが、娘が本気だと知ると「やりたいことがあるならやればいい」と背中を押してくれたという。
神谷さんは幸運でもあった。18歳の普通の女の子が職人になりたいといっても、受け入れ先を探すのは難しい。師匠になる職人は、自分の仕事をしながら、何もわからない若者に技術指導しなくてはいけないからだ。その負担は決して小さくない。
ところが、神谷さんが高校を卒業する年から静岡市の「クラフトマン・サポート事業」が本格的にスタートしたのだ。これは伝統工芸の後継者育成を目指すもので、師匠に補助金を出すことで負担の軽減を図っている。
この制度を使って神谷さんを受け入れたのが、篠宮康博さん。15歳からこの仕事をしているという匠だ。ベテランの職人というと、武骨で不愛想、というイメージがあるが、いかにも穏やかで優しい笑顔の篠宮さんのもとで、神谷さんはイチから手ほどきを受けた。篠宮さんはすぐに手ごたえを感じたそうだ。
「最初から落ち着いて仕事をしていたからね。この子は職人に向いてるなと思いました」
高校2年生のときに、たまたま伝統的工芸品の全国大会が静岡で開催されたこと。
高校3年生のときに、ちょうど「クラフトマン・サポート事業」が始まったこと。
ふたつの偶然が、神谷さんを駿河竹千筋細工の世界に導いたのだ。

川内イオ