師匠のもとで膨大な手作業と静謐な時間の先に拡がる世界を間近に見てきた神谷さんは、技術とともに感性を磨いてきた。女性ながらの柔らかさのなかに大胆さも滲む神谷さんの作品の結晶ともいえるのが、修行を始めて15年目という節目に製作した駿河竹千筋細工のトロフィーだろう。
「トロフィーは企画会社のデザイナーと組んで作りました。デザインの勉強はしていないから、新しいものを作る機会を与えてもらっても、なかなか大変です」と神谷さんは謙遜するが、篠宮さんは「いやいや、良い経験をしてますよ」と弟子の活躍に目を細める。
「トロフィーだって、今年もお願いしますと言われていますからね」
篠宮さんの言葉に、思わず「え!?」と驚くと、神谷さんは照れたように俯いた。聞けば、クライアントが昨年のトロフィーの出来栄えを気に入り、今年も依頼があったという。
僕が訪れた時はまだ製作途中だったので完成形を見ることはできなかったが、6月最後の週末に開催された「ユピテル・静岡新聞SBSレディースゴルフ」で優勝した選手が掲げた細身のトロフィーは、昨年の作品とはまた違うシャープな優美さを持っていた。
職人の高齢化が進むなかで、僕には駿河竹千筋細工の今後がどうなっていくのかはわからない。でも、篠宮さんと神谷さんの話を聞いて、竹の想像を超える柔軟性や素朴な美しさには未来を感じた。18歳で修業を始めて16年目、「どちらかといえば、あっという間でした」と振り返る神谷さんは、師匠と同じく一本の竹ひごから駿河竹千筋細工の可能性を切り拓いていくのだろう。

川内イオ