駿河竹千筋細工の職人は静岡竹工芸協同組合の一員として、組合で一括して受けた仕事を分担して請け負う。同じ形のものを数十個、数百個作って納めるという仕事が多い。
求められるのは常に一定のクオリティを保つことで、慣れないノコギリで竹を切るところから修業を始めた神谷さんは、ひと通りの仕事を自分ひとりでこなせるようになるまでに5年かかったと振り返る。
篠宮さんのもとにはイレギュラーな依頼もあり、それは神谷さんにとって大きな刺激になった。例えばあるときには静岡市から「トルソーを作ってほしい」という話が来た。当時まだ新人だった神谷さんは見本の採寸などを手伝う程度だったが、その後、著名なインテリアデザイナー、内田繁さんがデザインした茶室「受庵 想庵 行庵」のうち、竹を使った「想庵」の細工の依頼があったときは、篠宮さんとふたりで竹を加工するところから手掛けて、2カ月かけて完成させた。篠宮さんは自分の技術を未知の分野に活かすことに積極的で、こういった「意外な依頼」を楽しんでいるという。
「自分が想像しないような依頼がくるんだから、それは面白いですよ。挑戦しようと思うし、この仕事をやめられなくなりますね」
駿河竹千筋細工一筋50年を超える篠宮さんは、「伝統」の枠にとどまることなく、デザイナーやクリエイターと組んで野心的な仕事に挑んできた。その代表作のひとつである「想庵」は、欧州各地で展示された。
「篠宮さんは昔から変わった依頼を受けていらっしゃるので(笑)、いつも、こういうこともできるのか、と思いながら見ていました。いろいろ勉強できる環境でしたね」

川内イオ