そんな話をしていたら、レストランがどんどん混んできた。土曜日ということもあって広い店内は満席だ。
「ちょっと移動しましょう。日本でひとつしかないお店があります」
チャンドラニさんに促されてカルカッタを出た。少し歩くと、小さなレストランが見えてくる。チャンドラニさんが始めた、日本で唯一のインドの屋台料理の店「印ストリート」だ。本格的なインド料理だけでなく、インドの街中で売っているような軽い食事が食べられる。
チャンドラニさんの注文で目の前に出てきたのは、パラーターとパーパドという料理。 パーパドは粉状の豆を薄く伸ばして焼いたもので、スパイスがピリリと効いてパリパリとしている。チャンドラニさんの真似をして、右手で割りながら食べると、軽い煎餅のようで手が止まらない。もうひとつのパラータ―は、スパイスと野菜を混ぜたものをナンのような皮で包んで伸ばしたもの。自家製のヨーグルトにつけて食べると、口の中に、ヨーグルトの酸味とスパイスの香りがワッとひろがって、すっかりインド気分だ。
「日本にも、しっかりした和食以外の料理がたくさんあるじゃないですか。インドも同じ。だけどこういう料理を出すお店は今までなかったんですね」
今度は隣の席に、インド人のご家族がきた。車関係の会社にエンジニアとして勤めているという旦那さんと、奥さんと子どもたちだ。チャンドラニさんがヒンディー語で話しかけている。 またしても、東京にいるのだということを忘れてしまいそうだ。

ウィルソン麻菜