この六次産業のマンゴー商品をもっとたくさんの人に味わってもらうために、保田さんとしつ子さんは、三年前から、さらに新しいチャレンジをスタートした。
なんと「やすだ園キッチンカー」なるものを作って、農園を飛び出し、マンゴーの加工品の移動販売に取り組んでいるのだ。マンゴーアイスクリーム、マンゴーパフェ、マンゴージュース、マンゴーのクレープなどもある。どれもこれも聞くだけで食べてみたくなるものばかりだ。
なるほど! 保田さんが運転して、しつ子さんさんが作って販売するんですね、と私が言うと、保田さんが「違う違う! 俺も一緒に作るんだよ、俺は何でもうまくできるんだ!」と笑う。「クレープもうまく焼けるのよねー」としつ子さんも言うのだった。
このキッチンカーは不定期ではあるが、主に小美玉市の文化センターである「アピオス」と「みの〜れ」、茨城県内の道の駅や茨城空港と空港ちかくの「空のえき そ・ら・ら」、産業祭などに出店している。二人のキッチンカーは不定期でありながら、方々で出店を心待ちにされており、マンゴーのアイスクリームやクレープには、なんと追っかけがいるほどの人気なのだ。
そろそろ70歳に手に届くというのに、保田さんとしつ子さんの話は、なんだかまるで20代の若者の話を聞いているみたいだ、と私はふと思った。この地で誰もやっていなかった近代的な花き栽培を始め、さらに誰も考えもしなかったマンゴーを生産し、今では現代の農業の最先端である六次産業に取り組んでいる。そうしてキッチンカーを作って楽しみながら各地を巡っている二人の姿を想像したら、改めてこの二人は園芸と農業、両方のパイオニアなんだ! と思った。
そういえば、ル・ポワロンのシェフがこんなことを言っていた。職業柄、美味しいと思えば、産地にこだわらず、どんな食材でも取り寄せる。だからやすだ園のマンゴーは、国産で近場だから使っているわけではない、他の産地よりも美味しいからだ。それにマダムが続けて言った。「それとやっぱり、保田さんのマンゴー栽培の熱意に惹かれたからなんですよね。保田さんの仕事の話を聞いていると、私たち二人もいつも刺激を受けるんです」と。 遠い南の国からやってきた、美味しくて美しい果物、マンゴー。その美味しさとそれを作る二人の夫婦の熱意に、みんな虜になってしまうのかもしれない。保田さんとしつ子さんに見送られ、夕暮れのやすだ園を後にしながら、そんなことを思った。

松本美枝子