未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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最高級の糖度の秘密

花き栽培の技術が実を結んだ、マンゴー栽培

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.99 |25 September 2017
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#8二人の夢はハウスを飛び出す!

茨城県内の各地で、キッチンカーで移動販売する二人、茨城県を旅した時はぜひ探してみて!

 この六次産業のマンゴー商品をもっとたくさんの人に味わってもらうために、保田さんとしつ子さんは、三年前から、さらに新しいチャレンジをスタートした。
 なんと「やすだ園キッチンカー」なるものを作って、農園を飛び出し、マンゴーの加工品の移動販売に取り組んでいるのだ。マンゴーアイスクリーム、マンゴーパフェ、マンゴージュース、マンゴーのクレープなどもある。どれもこれも聞くだけで食べてみたくなるものばかりだ。

 なるほど! 保田さんが運転して、しつ子さんさんが作って販売するんですね、と私が言うと、保田さんが「違う違う! 俺も一緒に作るんだよ、俺は何でもうまくできるんだ!」と笑う。「クレープもうまく焼けるのよねー」としつ子さんも言うのだった。
 このキッチンカーは不定期ではあるが、主に小美玉市の文化センターである「アピオス」と「みの〜れ」、茨城県内の道の駅や茨城空港と空港ちかくの「空のえき そ・ら・ら」、産業祭などに出店している。二人のキッチンカーは不定期でありながら、方々で出店を心待ちにされており、マンゴーのアイスクリームやクレープには、なんと追っかけがいるほどの人気なのだ。

今も元気なこの二本の木から、マンゴー栽培のすべてが始まった。

 そろそろ70歳に手に届くというのに、保田さんとしつ子さんの話は、なんだかまるで20代の若者の話を聞いているみたいだ、と私はふと思った。この地で誰もやっていなかった近代的な花き栽培を始め、さらに誰も考えもしなかったマンゴーを生産し、今では現代の農業の最先端である六次産業に取り組んでいる。そうしてキッチンカーを作って楽しみながら各地を巡っている二人の姿を想像したら、改めてこの二人は園芸と農業、両方のパイオニアなんだ! と思った。

 そういえば、ル・ポワロンのシェフがこんなことを言っていた。職業柄、美味しいと思えば、産地にこだわらず、どんな食材でも取り寄せる。だからやすだ園のマンゴーは、国産で近場だから使っているわけではない、他の産地よりも美味しいからだ。それにマダムが続けて言った。「それとやっぱり、保田さんのマンゴー栽培の熱意に惹かれたからなんですよね。保田さんの仕事の話を聞いていると、私たち二人もいつも刺激を受けるんです」と。  遠い南の国からやってきた、美味しくて美しい果物、マンゴー。その美味しさとそれを作る二人の夫婦の熱意に、みんな虜になってしまうのかもしれない。保田さんとしつ子さんに見送られ、夕暮れのやすだ園を後にしながら、そんなことを思った。

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未知の細道 No.99

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。