
福田さんの弾く澄んだ力強いチャランゴの音色
「チャランゴ」という楽器をご存知だろうか? 南米の音楽フォルクローレに使われる、ボリビアが発祥の地と言われている撥弦楽器だ。
日本には数名ほどしかいないと言われているこのチャランゴのプロの演奏家が、柏に住んでいる。福田大治さんだ。しかも本場のボリビアで、チャランゴの唯一公式の認定状である「マエストロ・ディプロマ」を、外国人としては二人目として授与されている。
小学校6年でチャランゴに出会い、以来のめり込んでいったという福田さん。南米の一流アーティストがコンサートに来ると楽屋まで押しかけ、教えてもらったという。今でもその時のアーティストたちとの交流が深く、一緒に全国ツアーをするほどだ。大学ではスペイン語を専攻し、中南米数ヶ国に留学して現地の社会学を学び、チャランゴの演奏に磨きをかけた。
そんな福田さんにチャランゴを眼の前で弾いてもらった。チャランゴは、見かけは小さいが、想像もつかないような澄んだ力強い音が鳴り響く。よく見ると同じ音階の弦が二本ずつ組まれている、複弦楽器なのだ。
福田さんは70年以上前の古いボリビア民謡などをつないで、形を変えながら10分以上も演奏してくれた。その旋律は渋く、哀愁を帯びている。そこはかとなく、日本の古い音楽にも似ている気もする。もともとスペインのギターをルーツに持ちつつも、アンデスの先住民の音楽と結びつき、大衆の音楽として発展してきたチャランゴは、普通の人々が愛した楽器なのだ。楽器を持つ人々が集まれば、昔からある旋律を延々とつないで演奏して、楽しむのだという。古いチャランゴの曲はいつまでも聞いていられるような、美しい音色だった。


京都に生まれ育った福田さんだが、柏に住むのは訳がある。全国を回るチャランゴ演奏家として、そして大学でスペイン語と南米の社会学の教鞭をとる教育者としての二足の草鞋を履く福田さんだが、教壇に立つ大学が、柏、水戸、そして東京と3箇所あるため、どの街にもアクセスがいい柏に住んでいるというわけなのだ。全国の大きなコンサートホールから、小さなライブハウスまで様々な場所で演奏する福田さんだが、柏ではペルー料理店で演奏することもある。
なぜ大学で音楽ではなく、南米の社会学を教えるのか? という私の問いに、福田さんはこう答えてくれた。「日本の人にとって、フォルクローレが単なるエキゾチックな音楽として、とどまって欲しくない。もっと現代の南米の社会に欠かせない音楽なんです。南米の現代社会をみんなに知ってほしいし、学生たちにはそこから音楽に興味を持ってもらった方がきっといいと思っているんです」と笑って、またチャランゴを弾き始めるのであった。

松本美枝子