未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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[ 第100回特別企画 ]街にこぼれる素敵な音を追いかけて

常磐自動車道を行く!〔前編 埼玉・千葉・茨城編〕

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
録音・編集= 白丸たくト
未知の細道 No.100 |10 October 2017
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#4柏IC 日本有数のチャランゴ奏者が奏でる音楽

福田さんの弾く澄んだ力強いチャランゴの音色

 「チャランゴ」という楽器をご存知だろうか? 南米の音楽フォルクローレに使われる、ボリビアが発祥の地と言われている撥弦楽器だ。
 日本には数名ほどしかいないと言われているこのチャランゴのプロの演奏家が、柏に住んでいる。福田大治さんだ。しかも本場のボリビアで、チャランゴの唯一公式の認定状である「マエストロ・ディプロマ」を、外国人としては二人目として授与されている。
 小学校6年でチャランゴに出会い、以来のめり込んでいったという福田さん。南米の一流アーティストがコンサートに来ると楽屋まで押しかけ、教えてもらったという。今でもその時のアーティストたちとの交流が深く、一緒に全国ツアーをするほどだ。大学ではスペイン語を専攻し、中南米数ヶ国に留学して現地の社会学を学び、チャランゴの演奏に磨きをかけた。
 そんな福田さんにチャランゴを眼の前で弾いてもらった。チャランゴは、見かけは小さいが、想像もつかないような澄んだ力強い音が鳴り響く。よく見ると同じ音階の弦が二本ずつ組まれている、複弦楽器なのだ。
 福田さんは70年以上前の古いボリビア民謡などをつないで、形を変えながら10分以上も演奏してくれた。その旋律は渋く、哀愁を帯びている。そこはかとなく、日本の古い音楽にも似ている気もする。もともとスペインのギターをルーツに持ちつつも、アンデスの先住民の音楽と結びつき、大衆の音楽として発展してきたチャランゴは、普通の人々が愛した楽器なのだ。楽器を持つ人々が集まれば、昔からある旋律を延々とつないで演奏して、楽しむのだという。古いチャランゴの曲はいつまでも聞いていられるような、美しい音色だった。

  • アルマジロを使ったチャランゴもある!

 京都に生まれ育った福田さんだが、柏に住むのは訳がある。全国を回るチャランゴ演奏家として、そして大学でスペイン語と南米の社会学の教鞭をとる教育者としての二足の草鞋を履く福田さんだが、教壇に立つ大学が、柏、水戸、そして東京と3箇所あるため、どの街にもアクセスがいい柏に住んでいるというわけなのだ。全国の大きなコンサートホールから、小さなライブハウスまで様々な場所で演奏する福田さんだが、柏ではペルー料理店で演奏することもある。
 なぜ大学で音楽ではなく、南米の社会学を教えるのか? という私の問いに、福田さんはこう答えてくれた。「日本の人にとって、フォルクローレが単なるエキゾチックな音楽として、とどまって欲しくない。もっと現代の南米の社会に欠かせない音楽なんです。南米の現代社会をみんなに知ってほしいし、学生たちにはそこから音楽に興味を持ってもらった方がきっといいと思っているんです」と笑って、またチャランゴを弾き始めるのであった。

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未知の細道 No.100

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。