
一年に一度、土浦の街に人が80万ほどに膨れ上がる夜がある。それが土浦全国競技花火大会だ。見る人に感動を与えたと認められる最も優秀な花火師に内閣総理大臣賞が授与されるこの大会は、秋田の大曲などと並び、日本三大花火大会と言われている。毎年10月の第1週の土曜日に開かれるこの大会は、全国の名だたる花火師が参加し、その年の仕事の集大成でもあり、また次の年の花火のトレンドを決める大会とも言われている。
大会の歴史は古く、大正14年に海軍航空隊の殉職者の慰霊と関東大震災の復興を願って始まったとされる土浦の花火は、86年もの間、この街を活気づけてきた。東日本大震災のあった2011年も大会は途切れることなく、東日本大震災復興祈願第80回記念大会として開催し、多くの人々の心を慰める花火大会となった。
花火大会の当日は、お昼を過ぎると町中はもう大混雑が始まる。市内は車が通れなくなり、専用のシャトルバスに並ぶ人々、歩く人々など、市内を流れる桜川の会場に向かって、たくさんの人が移動し始め、街に熱気が帯び始めるのだ。
夕暮れ、標準玉と呼ばれる、1発の花火がドーンと上がって、競技はスタートとなる。1発の開花の美しさを競う10号玉の部、新たな技術を駆使した創造花火の部もあるが、土浦の大会は何と言っても、スターマインの部が有名であり、「スターマイン日本一」を決める大会とも言われている。音楽に合わせて数百発の様々な花火を使うスターマインの部は、毎年、優勝を狙って激戦が繰り広げられる。有名花火師たちによる、華やかな音楽、夜空にきらめく彩とりどりの光、そして大迫力の花火の音が弾け、空いっぱいに満ちる時間は圧巻だ。80万人の人々を二時間も引きつけてしまうのだから。
花火は音も重要な要素で、スターマインの演出の中で、花火の音のリズムは欠かせない。作品の最後は音と光で締まる、と言っても過言ではない。そして良い花火には、桟敷席から、とびきり大きな拍手や歓声が送られるのだ。

松本美枝子