未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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[ 第100回特別企画 ]街にこぼれる素敵な音を追いかけて

常磐自動車道を行く!〔前編 埼玉・千葉・茨城編〕

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
録音・編集= 白丸たくト
未知の細道 No.100 |10 October 2017
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#5土浦北IC 日本三大花火大会の音

(撮影:土浦全国花火競技大会実行委委員会)
(撮影:土浦全国花火競技大会実行委委員会)

 一年に一度、土浦の街に人が80万ほどに膨れ上がる夜がある。それが土浦全国競技花火大会だ。見る人に感動を与えたと認められる最も優秀な花火師に内閣総理大臣賞が授与されるこの大会は、秋田の大曲などと並び、日本三大花火大会と言われている。毎年10月の第1週の土曜日に開かれるこの大会は、全国の名だたる花火師が参加し、その年の仕事の集大成でもあり、また次の年の花火のトレンドを決める大会とも言われている。
 大会の歴史は古く、大正14年に海軍航空隊の殉職者の慰霊と関東大震災の復興を願って始まったとされる土浦の花火は、86年もの間、この街を活気づけてきた。東日本大震災のあった2011年も大会は途切れることなく、東日本大震災復興祈願第80回記念大会として開催し、多くの人々の心を慰める花火大会となった。
 花火大会の当日は、お昼を過ぎると町中はもう大混雑が始まる。市内は車が通れなくなり、専用のシャトルバスに並ぶ人々、歩く人々など、市内を流れる桜川の会場に向かって、たくさんの人が移動し始め、街に熱気が帯び始めるのだ。
 夕暮れ、標準玉と呼ばれる、1発の花火がドーンと上がって、競技はスタートとなる。1発の開花の美しさを競う10号玉の部、新たな技術を駆使した創造花火の部もあるが、土浦の大会は何と言っても、スターマインの部が有名であり、「スターマイン日本一」を決める大会とも言われている。音楽に合わせて数百発の様々な花火を使うスターマインの部は、毎年、優勝を狙って激戦が繰り広げられる。有名花火師たちによる、華やかな音楽、夜空にきらめく彩とりどりの光、そして大迫力の花火の音が弾け、空いっぱいに満ちる時間は圧巻だ。80万人の人々を二時間も引きつけてしまうのだから。
 花火は音も重要な要素で、スターマインの演出の中で、花火の音のリズムは欠かせない。作品の最後は音と光で締まる、と言っても過言ではない。そして良い花火には、桟敷席から、とびきり大きな拍手や歓声が送られるのだ。

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未知の細道 No.100

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。