未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
100

[ 第100回特別企画 ]街にこぼれる素敵な音を追いかけて

常磐自動車道を行く!〔前編 埼玉・千葉・茨城編〕

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
録音・編集= 白丸たくト
未知の細道 No.100 |10 October 2017
この記事をはじめから読む

#7水戸IC インター近くの憩いの池のさざめき

鳥たちのお喋り

 水戸の湖と言ったら、真っ先に思い浮かべるのは、街の中心地にある千波湖だ。緑豊かな水辺には様々な鳥が住み、朝から晩までランニングや散歩する老若男女に溢れている。水戸で一番活気がある場所の一つ、と言えるかもしれない。
 でもここではあえて、穴場のもう一つの湖を紹介したい。それが水戸ICからすぐそばの「大塚池」だ。千波湖より少し小さい大塚池は、インターを降りて、国道50号沿いにある。国道を走る車から見る大塚池は、ちょっと地味に見えるかもしれない。でも専用の駐車場を降りて、大塚池公園の中を入ってみると、緑が深くて、水鳥たちがたくさんいる、とても素敵な場所だということがわかる。釣竿を持って自転車に乗る少年たち、カメラを構えて水鳥を撮影するおじさん。犬の散歩をしている主婦や小さな子供を連れた若いお母さん。ベンチで井戸端会議をしているおじいさんたち。とにかく、ごく近所の人たちの憩いの場なのだ。
 朝早く、水鳥の声が聞きたくて、この近くでギャラリー「PUNTO」を営む甲高さん夫妻に案内してもらった。奥さんの純子さんは、ウォーキングと鳥が好きで、二人でよくここを散歩するのだという。
 大塚池は「冬がいいんですよ」と二人は教えてくれた。鳥は秋から冬にかけて、この池に飛来する。これからがいい季節で、冬に向かってだんだん鳥が増えて賑やかになってくるのがワクワクするんです、という純子さん。まるで飛行機のように湖面を飛び立つ白鳥の迫力や、喧嘩する姿がなんだか面白いオオバンなど、さまざまな鳥たちの姿を見るのが飽きないのだという。そんな話をしていると、すぐそばで元気な黒鳥たちが、水面をパシャパシャと進む音が聞こえてくる。

 小さいから、すぐに一周できること、人が多すぎなくて静かなことも、大塚池のいいところだ。インターを降りて、すぐに水戸の町に入らずに、ちょっと大塚池で休憩して、鳥たちと、ここが好きで散歩する人たちのさざめきに耳を傾けてほしい。

このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.100

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。