
波の音が入江に響き渡る
茨城県の最北端、かつて炭鉱の町として栄えた北茨城市にある北茨城ICを降りてしばらく走ると、五浦海岸へとたどり着く。五浦海岸は古来より景勝の地として称えられた場所だ。特に思想家の岡倉天心が、この海を愛し、思索を深めるためにここに「六角堂」を建てたことで知られている。建物と海を見に訪れる人も多く、この町のシンボルであるといえよう。
夕方、六角堂から見る太平洋は、荒く美しい。寄せては返す波の音は、いつまで聞いていても飽きることがない。
東日本大震災では六角堂は基礎だけを残し津波に流れてしまった。ここの津波高は10m以上と茨城では最も高く、この辺り一帯の被害も大きかったのだ。現在の建物は、いち早く一年後に復旧予算や寄付によって、創建当初の姿で再建されたものだ。昔と変わらぬ姿で戻った六角堂は、静かに海の際に立っている。
ひとり旅だろうか、一人の女性がじっと動かずに、暗くなるまで波の音を聞いていた。
さて北茨城市は、茨城と福島の県境。北隣は福島県のいわき市だ。
後編はいよいよ、関東を抜けて、東北・福島、宮城へと入る。

松本美枝子