秋田犬会館は、大館駅から車で10分弱。1、2階が公益社団法人秋田犬保存会のオフィスで、3階には秋田犬の資料や秋田犬の展覧会で受賞した歴代の名犬の写真などが展示されている。秋田犬の歴史について詳しく記されていて、見ごたえのある展示だった。
秋田犬会館でも複数の秋田犬が飼育されていて、その愛らしい姿を間近でみることができる。僕が訪ねた日は、ブサかわ系のたれ目の秋田犬、ゆきちゃんがいて、愛嬌たっぷりだった。
受付でエンジェルさんの話をすると、取材可能か聞いてみてくれるということで、ドキドキしつつ、秋田犬保存会の副会長、富樫安民さんの話を聞いた。ここでも、世の中ではあまり知られていない情報が出てきた。
「江戸時代より以前から、この土地には大館犬という土着犬がいました。遺跡からも犬の骨が出てきます。狩猟犬、番犬として生活をともにしてきたんです。でも、1630年代から始まった闘犬が明治、大正時代に盛んになり、強い犬を求めて交配するようになって、従来の大館犬が減ってしまった。そこで大正8年に史蹟名勝天然紀念物保存法(現在の文化財保護法の前身)が施行されたタイミングで、大館犬を天然記念物として保護しようということになったんです。その時、大館犬じゃネームバリューがないので『秋田犬』と名前を変え、1927年、当時の町長さんを中心に『秋田犬保存会』が設立されました」
大館犬から秋田犬への改名という大胆な案を誰が考案したのか今となっては知る由もないが、これが大当たり。1931年、秋田犬は日本犬で最初の天然記念物に指定された。
それから3年後、秋田犬保存会は独自の取り組みを始めた。それが「犬籍登録」だ。秋田犬を保護しつつ、増やしていくための方策で、秋田犬の子どもが生まれると3カ月以内に保存会に登録手続きをする。その際、正式に秋田犬として登録するには、その犬のおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんが秋田犬であるという情報が必要になる。これで秋田犬の血統を守るのだ。
しかし、第二次世界大戦は秋田犬にも暗い影を落とした。
秋田犬は毛皮用や食用に供出され、激減してしまったのだ。
この時、秋田犬保存会がわずかに残った秋田犬を繁殖させることでなんとか絶滅を免れた。
富樫さんによると累計72万頭ほどが秋田犬として登録されており、その血筋をたどることができる。冒頭にも記したが、国内外で秋田犬が人気を集めているなかで、この犬籍システムは、偽の血統証が出回るのを防ぐのに役に立っているという。

川内イオ