未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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秋田犬“ワン”ダーランドにようこそ!

忠犬ハチ公の故郷・大館はモフモフ天国

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.101 |10 November 2017
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#5見事な戦略で天然記念物に指定

秋田犬会館の前にも、やっぱりハチ公像。

 秋田犬会館は、大館駅から車で10分弱。1、2階が公益社団法人秋田犬保存会のオフィスで、3階には秋田犬の資料や秋田犬の展覧会で受賞した歴代の名犬の写真などが展示されている。秋田犬の歴史について詳しく記されていて、見ごたえのある展示だった。
 秋田犬会館でも複数の秋田犬が飼育されていて、その愛らしい姿を間近でみることができる。僕が訪ねた日は、ブサかわ系のたれ目の秋田犬、ゆきちゃんがいて、愛嬌たっぷりだった。

 受付でエンジェルさんの話をすると、取材可能か聞いてみてくれるということで、ドキドキしつつ、秋田犬保存会の副会長、富樫安民さんの話を聞いた。ここでも、世の中ではあまり知られていない情報が出てきた。

「江戸時代より以前から、この土地には大館犬という土着犬がいました。遺跡からも犬の骨が出てきます。狩猟犬、番犬として生活をともにしてきたんです。でも、1630年代から始まった闘犬が明治、大正時代に盛んになり、強い犬を求めて交配するようになって、従来の大館犬が減ってしまった。そこで大正8年に史蹟名勝天然紀念物保存法(現在の文化財保護法の前身)が施行されたタイミングで、大館犬を天然記念物として保護しようということになったんです。その時、大館犬じゃネームバリューがないので『秋田犬』と名前を変え、1927年、当時の町長さんを中心に『秋田犬保存会』が設立されました」

 大館犬から秋田犬への改名という大胆な案を誰が考案したのか今となっては知る由もないが、これが大当たり。1931年、秋田犬は日本犬で最初の天然記念物に指定された。

 それから3年後、秋田犬保存会は独自の取り組みを始めた。それが「犬籍登録」だ。秋田犬を保護しつつ、増やしていくための方策で、秋田犬の子どもが生まれると3カ月以内に保存会に登録手続きをする。その際、正式に秋田犬として登録するには、その犬のおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんが秋田犬であるという情報が必要になる。これで秋田犬の血統を守るのだ。
 しかし、第二次世界大戦は秋田犬にも暗い影を落とした。
 秋田犬は毛皮用や食用に供出され、激減してしまったのだ。
 この時、秋田犬保存会がわずかに残った秋田犬を繁殖させることでなんとか絶滅を免れた。

 富樫さんによると累計72万頭ほどが秋田犬として登録されており、その血筋をたどることができる。冒頭にも記したが、国内外で秋田犬が人気を集めているなかで、この犬籍システムは、偽の血統証が出回るのを防ぐのに役に立っているという。

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未知の細道 No.101

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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