映画『丸』は、謎の球体にそれぞれの人生を狂わされたふたりの男たちが、どちらか一方が生きるか死ぬか……というところまでの格闘をして不意に終わる。結末は誰にもよくわからない。
「そういう純度の高い、圧倒的なコミュケーションを描いてみたかったんですよね」と鈴木さんは言う。
『丸』を見て、私の頭にふと浮かんだことは、これまでの生活の中で時々やってくる、不条理で、でも個人ではどうすることもできない、さまざまな出来事だった。生きていればどんな人でも、1度や2度はそういう経験があるだろう。例えれば、あの2011年の大震災のような。
映画の中に突如現れる謎の球体は、この世の言い表すことのできない不条理を具現化したものではないか、とぼんやりと思ったのである。
その質問をぶつけてみると、確かに『丸』という映画は、従来の日本の社会的な問題や政治的な問題というものを考えて作っている、と鈴木さんは言う。しかも社会の問題を、単に事実として暴き立てるのではなく、ユーモアを持ってそれを乗り越えていけるような、そういう映画を作りたい、と鈴木さんは常に考えている。
しかし『丸』は、最初、日本では単なる不条理映画としてしか扱われなかった。一方で欧米の批評家たちは、すぐにその点を気づいてくれたのだと、鈴木さんは語る。
特にアジア映画に造詣が深いトニー・レインズというイギリスの映画評論家は、日本の現代社会に対する批判を、ブラック・ユーモアのあるコメディに託している、というふうに評価してくれた。それは「映画と批評の幸福な出会いでした」と鈴木さんは語る。そしてトニーさんの批評は、その後の様々な映画祭への招待、という活躍につながっていく最初に一歩になったのだ。
こうして世界各地の映画関係者のあいだで話題を呼んだ『丸』は、ついに2017年の夏、東京で1ヶ月の劇場公開、そして水戸のCINEMA VOICEでの凱旋上映となったのである!

松本美枝子