未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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物語は、夜の街で輝く

映画監督がいる映画館 CINEMA VOICE

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.109 |10 March 2018
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#6水戸から、ロッテルダム国際映画祭へ!

中編『YEAH』のロケ地は水戸市内の団地だ。(撮影:サユリニシヤマ)

 その日の鈴木さんは、つい二日前にロッテルダムから帰ってきたばかりだった。ロッテルダム国際映画祭は、ヨーロッパの映画祭の中でもインディペンデント映画やアジア映画を多く紹介することで有名だ。その映画祭のプログラマーから招待され、2本の新作をワールド・プレミアとして上映してきたのだという。「2回の上映とも満席でした」と鈴木さん。

 今回上映した中編映画『YEAH』と短編『After the Exhibition』は、どちらも水戸を舞台している。
 『YEAH』は主演の女優、柳英里紗さんありきで始まった映画だ。柳さんは以前に別の監督の水戸を舞台にした映画に出演していた。そこですっかり水戸の町と人たちが好きになったのだという。鈴木さんとも親しくなり、何か一緒に水戸で作ろう、と始まった作品だったのだ。ちなみにVOICEの社長も、柳さんのファンの一人でもある。そうして『丸』の制作スタッフと、水戸で新たに知り合った人たちの強力なバックアップで完成したのが『YEAH』なのだ。
 舞台は水戸のとある寂れた団地。そこに住んでいると思しき女の子がひとり。傍らには恋人と称する謎のマネキンを抱えている。そんな不思議な女の子が、帰る家がわからなくなり、団地をさまよう——そういう物語だ。

短編『After the Exhibition』のワンシーン。

 一方『After the Exhibition』は、水戸市内で展覧会を終えたアーティストが「展示が終わったけれど帰りたくない」とダラダラ過ごす様子をとらえた短編だ。このアーティストの青年も、水戸で知り合って友達になった人だ。
 「どちらの作品も、水戸に住んで活動してきたことが実を結んでいるんでしょうね」と鈴木さんは言う。今年のうちに、またどこかの大きな映画祭で上映されるのが期待されている2本である。

 さらに鈴木さんは現在、水戸市内をロケ地に新作の長編映画「あぼっけ」を制作中だ。数年かかっていたシナリオがやっと完成に近づき、そろそろ撮影に入りたいという鈴木さん。完成するのが待ち遠しい!

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未知の細道 No.109

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。