その日の鈴木さんは、つい二日前にロッテルダムから帰ってきたばかりだった。ロッテルダム国際映画祭は、ヨーロッパの映画祭の中でもインディペンデント映画やアジア映画を多く紹介することで有名だ。その映画祭のプログラマーから招待され、2本の新作をワールド・プレミアとして上映してきたのだという。「2回の上映とも満席でした」と鈴木さん。
今回上映した中編映画『YEAH』と短編『After the Exhibition』は、どちらも水戸を舞台している。
『YEAH』は主演の女優、柳英里紗さんありきで始まった映画だ。柳さんは以前に別の監督の水戸を舞台にした映画に出演していた。そこですっかり水戸の町と人たちが好きになったのだという。鈴木さんとも親しくなり、何か一緒に水戸で作ろう、と始まった作品だったのだ。ちなみにVOICEの社長も、柳さんのファンの一人でもある。そうして『丸』の制作スタッフと、水戸で新たに知り合った人たちの強力なバックアップで完成したのが『YEAH』なのだ。
舞台は水戸のとある寂れた団地。そこに住んでいると思しき女の子がひとり。傍らには恋人と称する謎のマネキンを抱えている。そんな不思議な女の子が、帰る家がわからなくなり、団地をさまよう——そういう物語だ。
一方『After the Exhibition』は、水戸市内で展覧会を終えたアーティストが「展示が終わったけれど帰りたくない」とダラダラ過ごす様子をとらえた短編だ。このアーティストの青年も、水戸で知り合って友達になった人だ。
「どちらの作品も、水戸に住んで活動してきたことが実を結んでいるんでしょうね」と鈴木さんは言う。今年のうちに、またどこかの大きな映画祭で上映されるのが期待されている2本である。
さらに鈴木さんは現在、水戸市内をロケ地に新作の長編映画「あぼっけ」を制作中だ。数年かかっていたシナリオがやっと完成に近づき、そろそろ撮影に入りたいという鈴木さん。完成するのが待ち遠しい!

松本美枝子