未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「日本一」の称号を受け継ぐ茶師の挑戦

究極の茶葉と秘伝の園

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.115 |10 JUNE 2018
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#10日本茶の未来

収穫は1年に一度、毎年5月の半ばから1週間ほど行われる。

 ほかの農業と同じく、日本茶の農家も高齢化によって耕作放棄地が増えており、日々かなりの面積の茶園が減少している。農林水産省の統計では、2017年の1年間で400ヘクタールが失われた。後継者不足もあり日本茶は衰退産業とも言われているが、小杉さんは日本を代表するシングルオリジン、東頭とともに逆風に立ち向かい続ける。

「東頭の香味は日本茶のなかの日本茶であり、その中でも風格があり唯一無二の存在だと思っています。時代の変化でもっと違う味のお茶を好む人達が増えてくるかもしれないし、ほかの良いお茶を作る生産者が沢山出てきているけど、叔父がそうだったように、僕はこの昔からのやり方を信じ、自分の考え方を貫き通しますよ。そう心に決めましたから」

 山からの帰り道、小杉さんの好意でモノラックに乗せてもらった僕は、日本茶の未来に思いをはせた。

 コーヒー業界のサードウェーブのように、日本茶にも変化の波は訪れるのだろうか。僕には予想がつかないけど、ひとつだけ言えることがある。「日本一の茶師」築地勝美さんのアイデアと、師匠である叔父を超えることを目指す小杉さんの終わりなき挑戦は、シングルオリジンを目指す新興の茶農家にとって、大きなヒントであり、指標になるだろう。

「しっかり掴まってくださいね、落ちちゃいますから!」

 背後から響く小杉さんの声に、ハッとした。目の前にはジェットコースター並みの下り坂。僕は手に汗を握りながら現実世界に帰還した。

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未知の細道 No.115

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。