ほかの農業と同じく、日本茶の農家も高齢化によって耕作放棄地が増えており、日々かなりの面積の茶園が減少している。農林水産省の統計では、2017年の1年間で400ヘクタールが失われた。後継者不足もあり日本茶は衰退産業とも言われているが、小杉さんは日本を代表するシングルオリジン、東頭とともに逆風に立ち向かい続ける。
「東頭の香味は日本茶のなかの日本茶であり、その中でも風格があり唯一無二の存在だと思っています。時代の変化でもっと違う味のお茶を好む人達が増えてくるかもしれないし、ほかの良いお茶を作る生産者が沢山出てきているけど、叔父がそうだったように、僕はこの昔からのやり方を信じ、自分の考え方を貫き通しますよ。そう心に決めましたから」
山からの帰り道、小杉さんの好意でモノラックに乗せてもらった僕は、日本茶の未来に思いをはせた。
コーヒー業界のサードウェーブのように、日本茶にも変化の波は訪れるのだろうか。僕には予想がつかないけど、ひとつだけ言えることがある。「日本一の茶師」築地勝美さんのアイデアと、師匠である叔父を超えることを目指す小杉さんの終わりなき挑戦は、シングルオリジンを目指す新興の茶農家にとって、大きなヒントであり、指標になるだろう。
「しっかり掴まってくださいね、落ちちゃいますから!」
背後から響く小杉さんの声に、ハッとした。目の前にはジェットコースター並みの下り坂。僕は手に汗を握りながら現実世界に帰還した。

川内イオ