知識と現場のギャップに苦しむ小杉さんを救ったのは家族であり、築地さんの時代から付き合いがある茶問屋やバイヤーだった。
取材当日も、茶園の葉の様子を見て、どのあたりから摘み取りを始めるのか、小杉さんは勝美さんの妻であり叔母の美幸さんと話し合いながら進めていた。同じ斜面でも、日の当たり具合によって微妙に成長速度が違うのだ。取材日たまたま居合わせた東頭を取り扱う茶業者さんも、小杉さんと「蒸し」の工程についてあれこれと話をしていた。
きっと、小杉さんと同じく関係者全員が東頭の茶園を大切に思っているのだろう。
「日本一の茶師」の後を継ぐことにプレッシャーはないですか? と尋ねると、小杉さんは一瞬沈黙した後、「はい」と認めた。
「先代が作ってきたお茶があるから、仮に僕が100%できたとしても、それは先代と同じものであって、やっぱり先代のお茶が一番だよねと言われます。先代を超えるため、自分の名前で日本一にすることを考えると、120%、130%のことをやっていかないといけない。でも、この素晴らしい環境を残してくれた叔父の恩に報いるためにも、それをやっていかないといけないと思っています」

川内イオ