未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「日本一」の称号を受け継ぐ茶師の挑戦

究極の茶葉と秘伝の園

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.115 |25 April 2018
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#9「日本一の茶師」の後継者という重圧

茶葉の様子を慎重に確認する小杉さん。

 知識と現場のギャップに苦しむ小杉さんを救ったのは家族であり、築地さんの時代から付き合いがある茶問屋やバイヤーだった。

 取材当日も、茶園の葉の様子を見て、どのあたりから摘み取りを始めるのか、小杉さんは勝美さんの妻であり叔母の美幸さんと話し合いながら進めていた。同じ斜面でも、日の当たり具合によって微妙に成長速度が違うのだ。取材日たまたま居合わせた東頭を取り扱う茶業者さんも、小杉さんと「蒸し」の工程についてあれこれと話をしていた。

 きっと、小杉さんと同じく関係者全員が東頭の茶園を大切に思っているのだろう。

「日本一の茶師」の後を継ぐことにプレッシャーはないですか? と尋ねると、小杉さんは一瞬沈黙した後、「はい」と認めた。

「先代が作ってきたお茶があるから、仮に僕が100%できたとしても、それは先代と同じものであって、やっぱり先代のお茶が一番だよねと言われます。先代を超えるため、自分の名前で日本一にすることを考えると、120%、130%のことをやっていかないといけない。でも、この素晴らしい環境を残してくれた叔父の恩に報いるためにも、それをやっていかないといけないと思っています」

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未知の細道 No.115

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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