未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日曜の朝、コーヒーと対話と哲学と。

カフェから始まる思索の旅

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.126 |26 November 2018
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#9朝モヤから生まれるアレコレ

 影山さんがパリに行ったのは、『カフェから時代がつくられる』という書籍を読んだのがきっかけだった。パリでは、歴代の偉人が集ったカフェが現存し、観光地化しているのだが、その本には「偉大な人が集っていたのではなく、集っていた人が偉大になっていったのでは」という言葉が書かれていて、影山さんは強く印象に残っているそうだ。

 カフェに人が集い、コーヒーを飲みながらさまざまテーマについて対話をする。僕は初めての参加でその効果を実感したから、「集っていた人が偉大になっていった」という説も頷ける。ちなみに、初開催から6年、170回を超えて開催されている朝モヤでも面白い人物が出てきている。

 今、インターネット上で話題になっている「レンタル なんもしない人」をご存じだろうか? ツイッターのプロフィールに「飲み食いと、ごくかんたんなうけこたえ以外、なんもできかねます。」と書かれている通り、ほとんど何もしないことを前提にその人をレンタルできるというサービスで、ツイッターのフォロワーは5万人超。全国の依頼者が、交通費と食費を負担して「なんもしない人」をレンタルしている。ツイッターを覗くと、大阪で飲み会に参加したり、高級車のランボルギーニに同乗していたりして面白い。

 朝モヤの参加者から教えてもらったのだが、実はこの「レンタル なんもしない人」、サービスを始める前から朝モヤの常連さん。偉人とは(まだ)言えないが、パリの哲学カフェをイメージした朝モヤからユニークな人物が登場したという事実は、非常に興味深い。後日、思い切って「レンタル なんもしない人」に連絡をとってみると「いまの活動には朝モヤも影響しています」とコメントをくれた。

 ほかにも朝モヤの参加者はあちこちで自主的に動き始めていて、影山さんはそれを喜んでいる。

 「東京を離れて岡山に行くんだけど岡山でやろうと思っているとか、町田に引っ越すんだけど町田でやろうと思っているみたいな感じで、参加者の人が自分の周りで場づくりを始めてくれることがあります。それは嬉しいことだし、いずれはお店という境界線を飛び越えて、町のなかで対話が日常的に行われるようになっていけばと思っています」

 対話という言葉は堅苦しいが、恐らく多くの参加者にとって単純に楽しいものなのだろう。脳への刺激が気持ちいいともいえる。だから自分でも開催したい、続けたいと思うに違いない。僕も予想をはるかに超える楽しさ、気持ちよさにすっかり魅せられてしまった。
 どなたか、僕と対話しませんか?

クルミドコーヒーでは、店主の影山さんが様々なテーマについて話をする「クルミドの夕べ」やクラシック音楽のコンサートなども開催されている。
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未知の細道 No.126

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。