さて招聘アーティストたちに刺激を受けている、地域の人々たちの話を聞いてきたわけだが、日本の守谷という郊外の町にやってきて、約4ヶ月間の滞在制作をおこなってきた3人のアーティストたちも、きっと、さまざまな刺激を受けたに違いない。コーディネーターの外山さんに通訳をお願いして、それぞれのスタジオでインタビューすることにした。
エリカは「ここでの体験が自分の制作に、これからどんなふうに影響していくのかは、まだわからないけど」と考えながら言う。
ふだんコマーシャルギャラリーや美術館で展示することが多いエリカにとって、「アーカスは人々とアートが相互に影響し合う特別な空間だよね。温かい空気があるプロジェクトスペースだと思う。それに今回の遺伝子組換えシルクのリサーチは、とても集中して行うことができたから、アメリカに帰ってからもこの作品の制作を続けたい」と語ってくれた。
イリカは、今回このアーカスプロジェクトに応募するにあたって、大きな理由のひとつにオランダと日本の自然の違いを感じてみたかったのだという。「例えばオランダは地震もないし、環境が管理された国だけど、日本は地震や台風、津波といった人間がコントールできない大きな自然があり、人々はそれをよく知っている。オランダ人である自分も、その環境を楽しみ、その中で、地球と人間に関する作品を作りたかったのよ」と教えてくれた。
ジハドもエリカのように、アーカスが制作に集中できる貴重な場所だった、とまず伝えてくれた。そして「他の2人のアーティストと一緒にいられたことが、とても良いブレインストーミングになったよね」と語る。「彼らの一員として、このスタジオにいられたことが良かったよ!」というジハド。
「普段は1人でプロジェクトをやるのが当たり前だけど、ゲストキュレーターとコーディネーターが、たくさんヘルプしてくれるのもありがたかった! 金澤さんが日本時間に合わせて、早朝のパリからスカイプしてくれたり、コーディネーターたちがもっとヘルプが必要なら、ちゃんと言ってね! といってくれるのもびっくりしたよ」とジハドはいう。
「世界中のいろんな場所で滞在制作しているから、自分はよくわかるのだけど、こういうスタッフたちがいるからこそ、アーカスが24年間もアーティスト・イン・レジデンスのプロジェクトを続けてこられたんじゃない?」とジハド。この嬉しい褒め言葉に、外山さんは照れ笑いを浮かべていた。そして、外山さんは「大変なこともあるけれど、アーティストと働く現場が好きな人には楽しい仕事場ですよ、アーカスは」と答えてくれた。
冒頭にも書いたように、アーカスプロジェクトとは、アーティストの新しい展覧会ではなく、あくまでも「オープンスタジオ」として、これまでやったことのないアプローチに挑戦するアーティストのための支援プログラムである。ここでの滞在制作を機に、あとで自分の国や他の場所で、完成した展示を公開するアーティストも多い。さらに大きな発表の場をつかんで活躍する人もいる。
このあと彼らの世界的なキャリアにつながる場になるように、まだ知られてない、そして新しいことにチャレンジしようとしている若手のアーティストを招いている、そういう場なんですよ、と外山さんは教えてくれた。

松本美枝子