未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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吹奏楽酒場、楽器のあるMusic Bar、ハモリ専門ショットバー

音を肴にハシゴする音楽酒場めぐり

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.135 |10 April 2019
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#2普段はできない「合わせて奏でる」をここで

アルトサックスの渡部さんと、テナーサックスの私

「せっかくだから、一緒に楽器吹きましょうか」

演奏技術の話から、渡部さんと演奏することに。店内には、楽譜や譜面台もある。今回吹くのはもちろん、定番曲『宝島』だ。周りを気にせず、思いきり楽器を鳴らすのはいつぶりだろう。飲み屋が集まる普通のビルのようだけど、こんなふうに楽器を吹いて大丈夫なのだろうか。

「宝島。」には楽譜や譜面台もある

「元カラオケ店なので文句は言われませんね。他の飲み屋もカラオケの音が漏れていたりするのが当たり前ですから、お互い様なんですよ」

そう言うと、渡部さんは軽やかにアルトサックスを吹き始めた。学校の先生であるお客さんに頼まれて、数年前から吹奏楽部の指導や指揮もしているそうだ。渡部さんが中心となり、常連のお客さんたちで「チーム宝島」を結成。外部講師として小学生や中学生、大学生などに楽器指導をおこなっている。

渡部さんが『宝島』の音源を流してくれた。アップテンポのカウントの後に合わせて、せーの! で息を吸う。

元吹奏楽部員が一番恋しいものはやはり「合奏」、ひとつのバンドとして演奏することではないかと思う。いろいろな音色、音域の楽器が集まって、息を合わせて曲を奏でる。そこには、自分のパートは落とせないという緊張感や、うまく音が重なったときの高揚感が混じり合う。渡部さんと『宝島』を演奏しているとき、確かにそれがあった。ああ、楽器って、吹奏楽って楽しいなと、短い一曲のあいだに何度も感じた。この感覚をもう一度、という人が少なくないのだろう。「チーム宝島」とは別の活動も始まった。

「お客さんのなかにも、合奏がやりたいけれど団体に通う時間がないという人が多くてね。常連さんたちと、宝島吹奏楽団というのを作ったんです」

定期的な練習はできないけれど「たまには楽器が吹きたい」という人が集まった宝島吹奏楽団は、昨年の定禅寺ストリートジャズフェスティバル、通称仙台ジャズフェスにも出演。楽しそうな映像を見せてもらうと「近ければ私も参加したい」と羨ましくなった。

映像を見ながら話をしているあいだにも何度も扉が開き、お客さんが増えてきた。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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