
続々とカウンターを埋めていく常連さんたちの「昨日ぶりだね」「先週のあのときさ」という会話から、頻繁にここで顔を合わせていることがわかる。なかには、「宝島。」に惚れ込み、ほぼ毎週末、県外から1時間以上かけて通っている人もいた。
「吹奏楽の話って、どこでも誰でもできるわけじゃないんですよね。でも、ここだったら好きなだけコアな話もできる。そして他のお客さんと仲良くなると『明日は誰が来ているかな』って会えるのが楽しみになるんです」
確かに渡部さんを筆頭に、「あの学校の演奏はすごかったな」「この曲はこうだよね」と話をしていると、ますます吹奏楽愛が深まっていく気がする。熱く語るうちに気づけば朝になっていた、ということもあるそうだ。仲良くなったお客さん同士でごはんを食べに行ったり、お互いの演奏会に応援に行ったりする温かな関係。
「でも吹奏楽に関係ない話もたくさんしていますよね。マスターの趣味で、他のジャンルの音楽酒場になっちゃうこともあるし」
笑い合う常連さん同士は、ただの飲み友達以上に仲がいいように見える。吹奏楽という共通のつながりを持っていることで、学生時代の部活仲間のような関係になっているのかもしれない。私も「何の楽器担当に見えます?」と元吹奏楽部ならではの自己紹介をしたら、とても初めて訪れたとは思えないくらい居心地が良くなった。
「仲間が増えたことが、このお店をやってて一番嬉しいことですよね。『吹奏楽』という共通のキーワードのおかげで、北は北海道から南は九州まで、全国から多くの人がここに来てくれるんです。音楽好きに、悪い人はいませんからね」
お店をやっていてよかったことを聞いてみると、渡部さんは少し酔いが回ってきたような口調で言った。また扉が開いて、お客さんが入ってくる。
「おかえりなさーい」
常連さんが入ってくるたびに、渡部さんや他のお客さんが声をかける。音楽でつながった人々が作り出すアットホームな雰囲気は、いつまでも居続けたくなるものだ。名残惜しくて最後にもう1杯、2017年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲マーチ『春風の通り道』という名前のついたオリジナルカクテルを頼んだ。