未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
135

吹奏楽酒場、楽器のあるMusic Bar、ハモリ専門ショットバー

音を肴にハシゴする音楽酒場めぐり

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.135 |10 April 2019
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#5アーティストとお客さんをつなぐ

私の後ろでお酒を飲んでいた女の子が、ギターを片手に演奏スペースへ移動した。そう、ライブの出演者が店内で一緒にお酒を飲んでいるのだ。「演奏する人と聴く人の間に壁を作らない」という小野寺さんの思いをそのまま形にした、仰々しいステージではなくフラットな床の先、すぐ目の前の空間でライブは始まった。

Oriさんの生演奏をBGMにお酒を飲むのは贅沢な時間

 「Music Bar Seed」で歌うのは初めてだという弾き語りのOriさんや、3月に1st SingleをリリースしたばかりのシンガーソングライターArisaさんの、力強い歌声とギターの大きな音が店内を満たす。お客さんや後に続く出演者たちは、彼女たちのことを見ながらも、贅沢なBGMのようにしてお酒を飲んでいる。これも小野寺さんが実現したかった光景だ。

こんなに近い距離でArisaさんの歌声を聴けるのは、おそらくこのお店だけ

「実は仙台って大きな音楽イベント以外では音楽に触れる機会があまりないと思っているんですね。路上ライブもできるところがあまりないんです。だからこのお店で、なんでもない日も音楽を楽しんでほしい。そして演奏する人と聴く人が、一緒にお酒を飲んで仲良くなってほしいですね。音楽だけじゃなくて人柄まで好きになってもらえたら、きっと強いつながりがあるファンになってもらえる。演者とお客さんも、人と人ですから」

最後は、なんと常連さんが集まってこの日のために結成されたバンドが登場。それまで私の横に座ってライブを見ていた男性が、「平日の夜や週末にこの店に集まって練習しました」と教えてくれ、ボーカルとして熱唱していた。練習期間がたったの2週間とは思えない息の合ったサウンド。何よりもメンバー全員が楽しそうだった。

ライブのトリを務めた、お客さんで結成されたバンドと一緒に

店主の小野寺さんは、このお店の外でも屋外音楽イベント「オトノタネ」を3月に仙台駅東口で開催したり、商店街のイベント実行委員も務めている。イベントの登壇者に、お店に来ている若いアーティストを推薦することで、彼らを応援したいと言う。

「バンドマンを目指している若い子たちにも、もっとこの店を使って発信してほしいです。ライブハウスだと一定のお客さんばかりになりがちですが、ここは不特定多数の人との出会いがある。そういう人たちに見てもらって、一緒に飲んでファンになってもらって、そして仙台を代表する有名バンドになってもらいたいですね」

いつか「Music Bar Seed」から、仙台発の有名アーティストが生まれるかもしれない。そうなっても、アーティストとお客さんが一緒にお酒を楽しむこの空間は、きっと変わらずここにあるだろう。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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