未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
135

吹奏楽酒場、楽器のあるMusic Bar、ハモリ専門ショットバー

音を肴にハシゴする音楽酒場めぐり

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.135 |10 April 2019
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#7ハモリのプロと本気で遊ぶ

マイクは全部で6本。メインのハモリ用の他にも、洗い物をしながらハモれるよう別のマイクが設置されている(左下)

静かなピアノのイントロ、お客さんたちは静かにこちらを見ている。「実力を見てやろうじゃないか」と思われているような気がして、勝手に緊張が増してくる。Aメロ、Bメロと進んでも、なかなか声が出てこないのは一気に飲んだビールのせいか。

ところが、サビで急に声の厚みが増した。カウンター内を見ると、石堂さんが備え付けのマイクでハモってくれている! 手元は忙しそうに動かしながらも、しっかりと私と一緒に歌ってくれている。歌いやすさに加えて、その心地良いこと。カラオケでも電子音でハモリが入るが、それとは比べ物にならないくらい気持ちが乗ってきて本気で歌える。

一緒に歌ってもらえるだけで、本気で気持ちよく歌えるのが不思議

そして落ち着いて周りを見渡すと、お客さんたちはみんな温かい目でこちらを見ていたり、一緒に口ずさんでくれているではないか。みんな本気で歌うことが好きだからこそ、歌った瞬間にぐっと距離が近くなったような感覚だった。なんとか最後まで歌い上げると、笑顔と拍手。「上手じゃん」「私もこの曲好きなんだよね」と、そこから会話がはずんだ。

「歌う人も、ハモっている私も、そして聴いている人も、みんなが気持ちがいい。それがハモリバーなんですよ」

店主の石堂さんが、ハモリの合間を縫って教えてくれた。確かにハモリがあることで、聴いている方もカラオケというよりライブを聴いているようで楽しい。お客さんの声量、声質などによってマイクの調整などをしているので、ハモリがお客さんを消すことはないそうだ。バーを切り盛りしながら、ハモリの調整までするのは忙しそうだ。なぜ、そこまでしてハモるのだろうか。

テーブルの片付けをしながらも、ハモリは欠かさない石堂さん

「大人たちが本気で歌える『大人の遊び場』が作りたかったんです。本気で熱唱しても笑われたりしない。むしろ一緒に本気で歌って、歌好きが思う存分楽しめる場にしたかった」

そのとき、誰かが歌っていた曲が盛り上がりを見せた。

「それじゃハモリに戻ります」

早口でそう言うと、石堂さんはすばやくカウンターに戻っていった。頼もしいハモリのプロだ。私は、あんなに緊張していたことも忘れて、次は何をハモってもらおうかなと考え始めていた。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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