心(と空腹)を落ち着かせるために、ひとりでパックに詰めた料理を売っているおばあちゃんのところへ。稲荷ずしから煮物、揚げ物まで「ぜんぶ手作りよ」。僕はなんだかホッとして、草餅をひとつ買った。100円也。柔らかくてポニョポニョの草餅を頬張りながら、探索続行。館鼻岸壁朝市は、良い意味でツッコミどころ満載だ。
枕と布団を売っている人がいる。どこから発掘してきたのかわからない、レトロなプラモデルを売っている人もいる。不思議な形の木工細工もあれば、野菜と布草履を一緒に売っている人もいる。季節外れのかき氷も売ってるし、金魚も売っている。その日の夜に獲れたばかりというタコの頭は、なぜか裏返しにされて売られていた。いまさっき採ってきたばかりのような泥だらけのごぼうが地面に置かれていて、踏みそうになった。




僕がついた頃には既に売り切れたのか実物を見ることはできなかったけど、店主が甥のために作ったというカブトムシやアゲハ蝶などのリアルな幼虫の形をしたグミは大人気と聞いた。手作り豆腐の店、焼き立てのパンの店、小籠包の店、塩手羽先の店、ラーメンやそばを売る店には長い行列ができていた。インド料理店でカレーを売っている男性に「1日にどれぐらい売れるの?」と聞くと、「100個ぐらい」。僕はそこで買ったタンドリーチキン(400円)にかぶりついた。
しばらくすると、「ほぼ公認」キャラクターで神出鬼没のイカドンがいた。名前の通りイカの形をしているけれど、完全なる無表情と不気味なたたずまいで、子どもたちに恐れられている。僕が見た時は、出店の横に置かれたパイプ椅子に座ってくつろいでいた。
館鼻岸壁朝市を一言で表すなら「カオス」しかない。学生時代にバックパッカーをしていた僕は、アジアやアフリカの市場で体験したオープンで心地よい、なぜか懐かしく感じる混沌を思い出した。