ここは、岩手の安比高原。ブナ林が広がるエリアにある山小屋「ブナの駅」のすぐ近くで、初夏から秋にかけての数カ月間、馬たちが24時間、放牧されている。
子どもたちは、岩手北部森林管理署が主催する、地域の小学生向けの森林学習プログラムで安比高原に来ていた。その一環として盛り込まれたのが安比高原と馬の歴史について紹介する時間。馬を呼び寄せる前に、阿部さんから子どもたちにその説明がなされていた。それは、こんな話だ。
安比高原では1000年以上も前から馬の放牧が行われてきた。最盛期には700頭にも及ぶ牛と馬が放たれ、笹やススキなどを食べていた。その結果、安比高原には日本古来の野芝が広がる美しい草原になっていた。しかし、時代ともに馬が担っていた作業は動力機械に変わって急速に数が減少し、1985年頃から放牧が途絶えると、あっという間に樹木や雑草が生い茂った。
そこで、1000年前から続いていた美しい芝の草原を取り戻そうと、2012年に結成されたのが、市民団体「安比高原ふるさと倶楽部」。同団体は地元で馬を飼っている人たちの協力を得て、2014年から馬の放牧を始めた。