ブナ林を抜けると景色が一変し、今度は一面のススキ野。聞こえてくるのは、黄金色のススキを撫でる風の音だけ。視界には人工物が一切なく、絵画のなかに入り込んだよう。圧倒的な静けさが、ぜいたくに感じる。
阿部さん「ここを馬に乗って歩いたら、気持ちいいと思いません?」
僕「間違いなくヤバいですね」
ススキ野の小道を進んでいくと、また白い木肌が輝くブナ林に入る。その先には、200年の樹齢を誇る、朽ち果てたマザーツリーがあった。その木の洞には苔が生え、新たな生命が宿っている。完全にジブリの世界で、神聖な場所にいるような気持ちになった。
時間にして30分ほどだったけど、何度「ヤバい」と言ったかわからない。こんなに気持ちのいい散策路は初めてで興奮冷めやらず、阿部さんに「ライターさんなのに、ヤバいしか言ってませんね」と突っ込まれて、「それはヤバいっすね」と返すのが精いっぱいだった。
ここに記すとネタバレになってしまうため、あえて書かないが、散策している間、阿部さんが森や樹木について、たくさんの話をしてくれた。ただ歩くだけでもお勧めだけど、ガイド付きで散策すると新しい学びも得られて、充実感も格別だ。
馬と触れ合える草原と、天国のように美しい森をいっぺんに体験できる稀有な場所、それが安比高原。森を歩いている時、阿部さんが口にした言葉が、今も記憶に残る。
「ここにいると、一日に一回は、涙が出そうなぐらい素敵な景色に出会えるんです。私の人生、これまでジェットコースターに乗ってるみたいでした。それも自分で選んだ道だけど、ここで馬に乗り換えようかなって」