3年の任期の間に子どもを産み、家を買って、すっかり八幡平の一員になった阿部さん。今年5月、馬と人間の共生、循環型社会を提案する「MATOWA(馬と輪)」を立ち上げた。
仕事のひとつは放牧事業の請負で、冒頭に記した森林学習プログラムやワークショップの開催も担当する。また、安比高原に限らず、八幡平市内の山や川など自然豊かな環境を活かした乗馬体験も提供している。独立した今は、これらに加えて、もっと自分と馬の仕事を作っていかなくてはならない。そこに恐れを感じることなく、元気に大股の一歩を踏み出すのが、阿部さんだ。
「自分がやりたいと思ったことは、やらずにいられないんです。目の前にハードルがあったとしても、気づかないタイプで(笑)。失敗したとしても、それは過程じゃないですか」
独立して4カ月、自分の能力をフルに発揮しなくてはいけない立場になって、頭のなかにはアイデアが溢れている。ヒントは、安比高原の自然だ。
子どもたちの森林学習プログラムが終わった後、馬が放牧されている草原とは反対側にある「遊々の森」という散策路を案内してもらった。僕は馬の放牧にばかり注目していたのだけど、お世辞抜きにして、そこには桃源郷のような景色が広がっていた。
木漏れ日がまぶしい木立ちを抜けると、見事なブナ林が広がる。このあたりに生えている樹木は、昭和の初期、木炭や漆器などの資材として皆伐されていた。しかし、水分を多く含み、使いづらいブナは残された。そのブナが種を落とし、数十年たって、立派なブナ林に成長したのだ。ここに足を踏み入れた瞬間、頭の中に爽やかな風が吹き抜け、身体全体が喜んでいるような気がした。
阿部さん「私、リフレクソロジーを勉強したことがあるんです。ここで、マットを引いてマッサージをしたら、気持ちいいと思いませんか?」
僕「それはヤバいですね」