未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編 会いたい人がいる旅 縁もゆかりもなかった山梨が、「私の田舎」になるまで。

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.166 |27 July 2020
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#5おおきなお腹でぶどう畑を駆けた日

「実は、山梨でライブをやろうと思っていて」

飯嶋さんから相談を受けたとき、私は妊娠6ヶ月だった。以前、飯嶋さんに誘われて東京都台東区にある古民家ゲストハウス『toco.』で一緒にライブを見たアーティスト「ビューティフルハミングバード」を山梨に呼ぶ、というのだ。幸運にもつわりが軽かったので、私は当日の写真撮影とレポートを手伝うことになった。

ライブ会場となったのは、甲州市勝沼にある古民家カフェ『つぐら舎』。裏手には大きなぶどう畑が広がっていて、ここで『つぐら市』と呼ばれるマルシェをはじめとした、さまざまなイベントを開催している。店主の小出順子さんがもともと甲州市の観光協会と広報課に勤務していたこともあり、町の中と外をつなぐ観光案内所のような役割を担っているのだ。

ライブの準備は、飯嶋さんと小出さんが主体となって動き、私は友人と一緒にフライヤーを作った。ライブは出産予定日の2ヶ月前。少しずつ大きくなっていくお腹が、ライブの日が近づいていることを感じさせた。

そして、2018年4月。偶然にも、私がはじめて山梨を訪れたのと同じ日に、ライブはおこなわれた。50枚あったチケットは完売。実は、結成して15年のビューティフルハミングバードにとって、これが初めての山梨でのライブだったそうだ。

ライブを見届ける飯嶋さんと小出さん

お腹の子どもにビューティフルハミングバードのやさしい歌声を聴かせてあげよう。そう思っていたはずなのに、私は終始走り回って写真を撮りまくっていた。一瞬も逃したくないほどに、夕焼けのぶどう畑を背にしたステージは美しく、参加している人たちの顔は楽しそうだった。

それから、つぐら舎を訪れるたびに、あのライブを思い出す。私の山梨の思い出のなかでも、ずっと忘れられない日だ。

夕暮れのぶどう畑に響くやさしい歌声を、きっとお腹の子も聴いていただろう
ビューティフルハミングバードのおふたり、山梨のみなさんと。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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