
2019年7月。1歳になった娘を連れて、私は久しぶりに山梨を訪れた。都会のコンクリートジャングルに住む娘を、大自然と触れ合わせてあげたい。親になるとみんなそう思うものなんだろうか。もしかしたら、私が山梨に行きたいだけなのかもしれない。
飯嶋さんは大きなバンをレンタルしてくれていた。飯嶋さんと奥さん、高校生の娘さん、私と夫と娘、私の母の7人を乗せ、今回はお友達の紙職人、宮本重男さんのもとへ。私と夫は以前もお会いしたことがあり、さっぱりした物言いが大好きな人だった。
宮本さんは、紙職人になって40年以上。かつては、ラジオパーソナリティ、放送作家の故永六輔さんの原稿用紙を漉って届けていたという歴史を持つ。現在は、奥さんと一緒に『山梨県富士クラフトパーク』にある『てすき屋逆手山房』で、紙細工やうちわなどの紙用品の販売や、手漉き和紙づくりのワークショップをしている。
娘を抱えて入っていくと、宮本さん夫婦が満面の笑みで出迎えてくれた。「かわいいねえ、かわいいねえ」と娘を撫でる姿は、まるで本当のじいじとばあば。ところが、娘は人見知りの真っ最中。「じいじだよ!」と駆け寄る宮本さんを見て号泣する娘の動画は、今でもたまに見返すほど私のお気に入りだ。
この日、私と夫は手漉き和紙を作らせてもらった。その頃、ちょうど和紙の原材料トロロアオイの生産が終了したというニュースがあり、紙業界や和紙についての話題で盛り上がった。宮本さんは、和紙の魅力を広める『富士川クラフトツーリズム』という活動に、地元の人々と取り組んでいる。熱いおじいちゃんなのだ。
手作り和紙のデコレーションに夢中になって、気づいたら娘がいなかった。どうやら、宮本さんの奥さんが抱っこしてそのまま散歩にでかけたらしい。
会って2回目なのに、なんだ、この安心感は。あまりに自然に、自分の孫のように接する宮本さん夫妻に、夫とふたりで笑ってしまった。都会でこの距離感のじいじとばあばは、そうそういない。それから10分くらいは戻ってこなかったと思うが、娘はご機嫌で帰ってきた。