未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編 会いたい人がいる旅 縁もゆかりもなかった山梨が、「私の田舎」になるまで。

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.166 |27 July 2020
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#41300年ものの温泉へ

私の熱い山梨愛が伝わったのか、あまりに「一緒に行こう」としつこかったからなのか。あるとき、出不精の夫を山梨まで連れ出すことに成功した。

その旅で夫を連れて行ったのが、山梨市にある『岩下温泉旅館』だ。以前、飯嶋さんに紹介してもらい、私が惚れ込んだお気に入りの場所。

宿泊できる新館もあるけれど、私たちが訪れたのは日帰り温泉として利用できる旧館のほう。1933年(昭和8年)に建てられ、国の登録有形文化財にも指定されている建物だ。中に入ると、歴史を感じる雰囲気になんだかきゅっと緊張するような、木のなつかしい質感にほっと安心するような、不思議な雰囲気なのだ。

歴史ある建物が好きな夫も、うれしそうにキョロキョロしていた。前回来たときに「夫が好きそうだな」と思っていた。連れてこられて、勝手に満足である。

岩下温泉旅館の4代目若女将、宮本実佳さんに会ってお話を伺うと「霊湯、よかったら入っていきます?」と勧めてもらった。

岩下温泉旅館の半地下には、1300年の歴史を持つ「霊湯」が広がっている。もともとは地域の人々の共同浴場で、「病を治す温泉」として親しまれていたそう。それを1875年(明治8年)に民間で譲り受けて温泉旅館として始まったのが、岩下温泉旅館だ。

え、いいんですか!と言いながら、タオルを受け取る。実は前回来たときから、ちょっと入ってみたかった。

まずは1階にあるお風呂で身体を洗って温め、いざ半地下の霊湯へ! 霊湯に行くには、一度風呂場を出て、バスタオル一枚で廊下を渡らねばならない。少しドキドキするのだが、幸い、館内には私と夫しかいなかった。

霊湯に足を入れると、冷たい! 季節は秋。まだそこまで寒くないとは言え、28℃の霊湯には、結局下半身までしか入れなかった。夏の暑い日や、流行りの交互浴のように熱い風呂のあとは気持ちいいだろう。

その夜ホテルで眠りにつくとき、夫がぽつり「いいね、山梨」と言った。すかさず「でしょ。また来ようね」と言うとうなずいていたので、私も安心して眠りについた。

若女将、宮本実佳さんと。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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