
私の熱い山梨愛が伝わったのか、あまりに「一緒に行こう」としつこかったからなのか。あるとき、出不精の夫を山梨まで連れ出すことに成功した。
その旅で夫を連れて行ったのが、山梨市にある『岩下温泉旅館』だ。以前、飯嶋さんに紹介してもらい、私が惚れ込んだお気に入りの場所。
宿泊できる新館もあるけれど、私たちが訪れたのは日帰り温泉として利用できる旧館のほう。1933年(昭和8年)に建てられ、国の登録有形文化財にも指定されている建物だ。中に入ると、歴史を感じる雰囲気になんだかきゅっと緊張するような、木のなつかしい質感にほっと安心するような、不思議な雰囲気なのだ。
歴史ある建物が好きな夫も、うれしそうにキョロキョロしていた。前回来たときに「夫が好きそうだな」と思っていた。連れてこられて、勝手に満足である。
岩下温泉旅館の4代目若女将、宮本実佳さんに会ってお話を伺うと「霊湯、よかったら入っていきます?」と勧めてもらった。
岩下温泉旅館の半地下には、1300年の歴史を持つ「霊湯」が広がっている。もともとは地域の人々の共同浴場で、「病を治す温泉」として親しまれていたそう。それを1875年(明治8年)に民間で譲り受けて温泉旅館として始まったのが、岩下温泉旅館だ。
え、いいんですか!と言いながら、タオルを受け取る。実は前回来たときから、ちょっと入ってみたかった。
まずは1階にあるお風呂で身体を洗って温め、いざ半地下の霊湯へ! 霊湯に行くには、一度風呂場を出て、バスタオル一枚で廊下を渡らねばならない。少しドキドキするのだが、幸い、館内には私と夫しかいなかった。
霊湯に足を入れると、冷たい! 季節は秋。まだそこまで寒くないとは言え、28℃の霊湯には、結局下半身までしか入れなかった。夏の暑い日や、流行りの交互浴のように熱い風呂のあとは気持ちいいだろう。
その夜ホテルで眠りにつくとき、夫がぽつり「いいね、山梨」と言った。すかさず「でしょ。また来ようね」と言うとうなずいていたので、私も安心して眠りについた。