未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編 美食・アート・森・海・動物を堪能! 本当は秘密にしたい。プラチナ房総トライアングル

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.168 |25 August 2020
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#7馬に乗りながら妄想

その日は、馬森牧場の広々とした平屋の宿泊施設で1泊。夜ご飯は、近くの道の駅「富楽里とみやま」で購入したものを部屋で食べた。この道の駅では地元で採れた鮮魚のお寿司やフライなどなどが売っていて、どれもレベルが高い。翌朝は、クルックフィールズで買ってきたパンを食べる。たくさん買ってきたけど、どれも素晴らしい味で、朝から幸福に浸る。

近所の公園でよくポニーに乗っているせいか、なかなか様になっている(親ばか)。

乗馬は10時から。まずは娘が、ナックルという馬に乗った(夏に牧場に来たから、「なつくる」でこの名前らしい)。それほど大きな馬じゃないけど、ポニーよりはかなり立派。でも前日、馬たちに雑草をあげて存分に触れ合っていた娘は怖がる様子を一切見せず、背筋をピンと伸ばしてまたがった。

菅野さんが馬場で馬を引いて回ってくれている間、ずっと笑顔。一瞬、バランスを崩してコテンと落ち、びっくりして泣いたけど、その後、すぐに馬上に戻った。こういう姿を見ると、連れてきてよかったなあとしみじみ感じる。

次はSちゃんで、馬は北海道からやってきた牧場のボス、「どう」に交代。牧場で2番目に大きくて、凛々しい馬だ。Sちゃんも最初は怖そうだったけど、だんだんリラックスしてきて、最後はけっこう様になっていた。

映画やドラマに出てくる悪役にしか見えない自分。

その後、僕もどうに乗った。馬のパカパカというリズムに体を合わせて進んでいると、ゆっくり歩いているだけでもなんだか気持ちいい。娘と僕がもっとうまく、速く馬に乗って走れるようになって、一緒に草原を駆けたりしたら、と妄想する。もうドキドキだ。

あっという間に時間が過ぎ、馬房に戻る。娘はそこでまた、雑草を馬にあげる、というひとり遊びに夢中になっていた。そのうち、馬たちも「この小さな女の子は、フレッシュな草をくれる」と憶えたようで、娘が雑草を採りに行って戻ってくると、娘のほうに顔を伸ばすようになっていた。その鼻先をそろり、そろりと撫でる娘。

僕は子どもの頃から動物が好きで、ムツゴロウ王国で働きたいと思っていた。だから、娘が動物と打ち解けて仲良くしているのを見ると、心底嬉しく感じる。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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