
太陽が沈むのと反比例するように、私たちのテンションは上がっていく。私たちは旅先で夜に出歩くのが好きなのだ。しかも、ここは憧れの銀山温泉。山奥のノスタルジックな温泉街の夜を見ずには寝られない。
同じように考える観光客が多いらしく、旅館の玄関には「ご自由にどうぞ」と、足元まである分厚いロングジャケットがかけられていた。ありがたく貸していただくことにする。
温かなお風呂に浸かり、お肉やお魚、山菜まで盛りだくさんの豪華な夜ごはんをいただき、今の私であればそのまま布団に寝転ぶところだが、6年前の私は違った。髪も乾かさずにニット帽をかぶって、玄関へ。
「そんな格好で、風邪引くよ!」
脳内で響く母の声を振り払いながら、湯上がりの浴衣のままジャケットを羽織る。むふふ、親から離れたふたり旅では、こんな好き勝手もできてしまうのだ。
外に出ると、冷たい空気が顔面に当たる。けれど、さすがのロングジャケット、中は浴衣一枚でもほとんど寒さを感じなかった。もしくは、興奮で体温が上がっていただけかもしれない。
おなかはいっぱいなので、写真を撮りながら温泉街をブラブラ歩く。温泉街の中心を流れる川の流れは速く、ゴォっという音ともに山から大量の水が流れていた。夜の写真撮影はむずかしい。当時、手のひらサイズのコンパクトデジタルカメラ、通称コンデジで一生懸命撮影したものを見返しても、ブレているものばかり……。今度行くときは、いいカメラを持って行きたい。


昼間には気付かなかったけれど、銀山温泉は明かりの数がとても多い。各旅館の軒先や街灯に明かりが灯ると、温泉街全体がぱあっと明るく浮かび上がって、まさに「一生に一度は行きたい絶景」だった。
「せっかくなら、奥のほうまで行ってみよう」
温泉街自体は、そこまで大きくはない。奥の方まで行ってみると、昼間は見つけられなかったカフェがあった。多くのお店が閉まるなか、そこだけはポッとオレンジの明かりがあたたかそうで、私たちは吸い寄せられるように中へ。
お店の名前やどんなメニューがあったかはあまり覚えていない。でも、私たちが頼んたホットココアが想像より大きくて熱々だったことや、窓辺の席から見えた銀山温泉の町並みは、今でもときどき思い出す。