未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編 蛙の大合唱を聴きながら 心許せる友と入った、山形の湯

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.171 |9 October 2020
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#5「結果オーライ」が合言葉

蔵王駅前にぽつんと設置されていた地図。温泉は遥か右上にある。

「それがね、蔵王温泉と蔵王駅が別物だったなんて知らなくて! 運転手さん、今から蔵王温泉に行けませんか?!」

「いや、今から蔵王温泉まで行っても、夜遅いから開いてないよ」

タクシーに飛び乗り開口一番、一握りの希望を持って尋ねるも撃沈。駅のおばちゃんに引き続き、タクシー運転手のおじちゃんも無理だと言う。そんなあ……。それでも、やっぱり温泉を諦めきれない私たち。

「運転手さん、もうどこでもいいんで、この辺でお風呂入れるところありませんか?」

もはや源泉かけ流しじゃなくてもいい。なんなら、チェーンのスーパー銭湯でもいいから、山登りで疲れ切った私たちを湯船に浸からせてくれ!

タクシー運転手さんに連れて行ってもらった「月岡ホテル」。良いお湯でした。

そんなわけで、タクシーが到着したのが、かみのやま地区にある『仙渓園 月岡ホテル』だった。この地域、実は「かみのやま温泉」として知られ、約560年の歴史がある温泉地。私たちが間違えて降り立った蔵王駅から、車でおよそ10分のところに別の温泉地があったのだ。ミラクル!

『仙渓園 月岡ホテル』では、宿泊の他に日帰り入浴もやっている。広い大浴場で汗を流し、やはりすぐさま露天風呂へ。ここでも蛙の大合唱を聴きながら、私たちはいろいろな話をした。

「蔵王温泉と蔵王を間違えたのは、どっちの責任か」なんて、つまらない話はしない。それよりも、結果的にこんな気持ちの良い温泉に辿り着いたことがいかに奇跡だったかを、何度も繰り返し話しては笑った。

結果オーライ。これまでのどの旅行でも、私たちは自然とそれを合言葉にしてきたのかもしれない。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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