未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
172

『旅の思い出』編 雨の奥多摩も悪くない 5歳、はじめての山道をいく!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.172 |26 October 2020
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#7森のトレイルをぐんぐん進む

渓谷沿いを外れ、愛宕山方面に進み、森のトレイルに進んだ。さすがにこっちにはレジャー客がいるだろうと予想していたけれど、また誰もおらず、森も独占状態である。空は明るさを増し、体が汗ばんでくる。

ちなみに奥多摩にはたくさんの登山道やトレッキングルートが整備されている。主要な山としては、本格登山モードの雲取山(2,017m)や鷹ノ巣山(1,737m)、もうちょっと易しいところではケーブルカーも整備された御岳山(929m)などがある。トレッキングルートも充実していて、3時半をかけて鳩ノ巣渓谷をゆく「大多摩ウォーキングトレイル」、そして神社や滝を抜けて奥多摩湖まで抜ける「奥多摩むかし道」などがある。

そんな中から私たちが選んだのは、1時間ほどで巡れ、アップダウンも少ない森林浴ルートだ。決してキツくはないが、いったん森のルートに入ったらもう休む場所や商店もなく、とにかく歩き切るしかなかった。5歳でも頑張ればゴールできると信じたい。

ルートの入り口には、近くにムササビがいるという看板があった。ムササビはリスの仲間で、木の洞穴でくらしているらしい。
「ムササビ、見たいー!」とナナオは目を一生懸命にこらした。
ムササビって飛ぶヤツよね? きっと夜行性だね。
そんな話ながらしばらく木々を眺めていたが、ムササビは現れなかった。

しばらく山道が続いた。歩き始めてもう1時間以上経つので、ナナオはすっかりバテバテの甘えっ子モードだ。
「ねえ、パパ、ママ! まだ着かないの? どれくらい歩くの? 疲れたよー、だっこー。」
「そうだよねえ、あとどれくらいか気になるよね」とマユミさんは優しく声をかける。
地図を見せながら、「いまここら辺で、ここまでぐるっと歩くんだよ」と教えると「えー!!そんなに…..」と衝撃を受けた様子だ。
木々の香りが濃くなり、道中で、カラフルなキノコや可憐な花、蛇、かえる、たくさんの虫を見つけた。ナナオはひとつ生き物や花を見つけるたびに「わあ」と声をあげ、私たちはまた少しハッピーになった。また雨が降ってきたが、もうあまり気にならなかった。雨が降った直後の森はしっとりと輝きその美しさに圧倒された。
ナナオの疲労がマックスに近づくと、マユミさんは『ドラえもん』や『鬼滅の刃』の主題歌を歌い元気付けてくれた。(本当にいい人だ!)

そうして私たちは無事に森を抜け、集落を通り抜けながらUターンし、再び渓谷エリアへ戻った。ここに至って不思議なことに、娘はまたやる気を出しずんずんと力強く歩き始めた。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。