さっきまで「もうつかれたー」と繰り返していたナナオは、「もっと歩きたい!」と言いだした。どうした?? アドレナリン・ハイか?
しかし、今度は私たちの方がヘトヘトで、「コーヒー飲みたい」「休もう」ということになった。そんなとき、ちょうど木造のピザ屋さんを見つけた。
焼きたてピザ! いいねえ、食べたい!
私たちはこの店を今日のゴールにすることに決めた。店内は暖かく、大きなピザ窯があり、大きな窓からは見事な渓谷の景色が見えた。
「着いたぞー!」
「おめでとうー!」
「やりきったー!」
三千メートル級の山にでも登ったように祝いあう私たち。
時計を見ると、歩き始めてちょうど3時間。こんなにたくさん歩いたのは、ナナオにとって初めてだ。しかも後半は雨の中である。人間は可能性に満ち溢れている、やればなんでもできるぞ、という大げさすぎる気持ちにすらなった。
「ねえ、誰が一番だった?」
ナナオがしきりに聞くので、「うん、ナナだよ。5歳なのによく頑張った、えらい!」と思いっきり褒め称えると、「うん、玉虫はいなかったけどねー」と名残惜しそうに答えた。


ナナオは、鉱物のホカホカの焼き芋にかぶりつき、私たちも焼きたてのマルゲリータピザを頼んだ。
「本当にいい日だったねー」
「気分は最高?!」
私たちはホットコーヒーで乾杯した。
うん、雨の奥多摩も悪くないね。
また来ようね。今度は晴れた日にリベンジしよう。
※未知の細道では、新型コロナウイルスの影響が収まるまで、ライター陣の過去の旅をつづるエッセイを掲載いたします。