奥多摩駅に着くと、マユミさんが雨雲を吹っ飛ばすような笑顔で待っていた。マユミさんは、本格登山スタイルで全身を包んでいる。一方の私たちは、パーカーに雨カッパという適当すぎる格好でちょっと恥ずかしくなった。
早めのランチをしながら何をするか考えようということになり、定食屋さんに入った。イオくんは「釣りをしたい」と言うのだが、だいぶ前の大雨で川が増水し、釣り場も被害を受けて、クローズしているようだ。これだけ寒いと川に入ることももちろんできない。
一方で、良い意味で何も考えていないのが、ナナオだった。
「ナナちゃん、今日は一緒に玉虫を探そうね! 七色でとっても綺麗な虫なんだよ。飼うこともできるんだって」とマユミさんはナナオに優しく声をかけてくれる。ナナオは虫や生き物が好きなので、「うん、玉虫?!!」と盛り上がっている。
定食屋さんが出してくれたうどんは、とてもおいしかった。
熱々のうどんが私の気分を大きく変えてくれ、まあ、なんとかなるさ?、とりあえず渓谷近辺をトレッキングでしてみよう! 嫌になったら温泉入って帰ろう、という適当すぎるプランにまとまった。
定食屋さんを出ると、さっきまで降り続いていた雨があがっていた。
お? もしかして……これってまさに曇りじゃない?
うわー! やったー!!!
私たちはまだ何ひとつ達成していないにも関わらず喜びに打ち震えた。山々には低く煙るように雲がたれこめ、なんとも美しい。
「ママ、なんであんなところに煙があるの?」とナナオは指差した。
「あれは煙じゃなくて雲なんだよ。雲さんが、とても低いところまで降りてきてるんだよ。よし、じゃあ歩きに行こう!」