こうしてひとりではしゃぎながら20分ほど行くと、折り返し地点に。少し気分を落ち着けるために、帰り道はちょっと違う楽しみ方をしてみようと、カバンのなかから文庫本を取り出した。村上春樹の『羊をめぐる冒険』だ。このトロッコはアクセルを踏まなくても緩い速度で前進する仕様なので、僕は自動運転モードにして文庫を広げた。森の風の歌を聴きながら。
なぜ? 実は『羊をめぐる冒険』に出てくる舞台のひとつ、北海道の「十二滝町」は、美深町の仁宇布エリアがモデルになっているという説があるのだ。
例えば、本文に「札幌から260キロ」「大規模稲作北限地」とあり、美深町はまさにその距離にある米作北限地帯。「日本で第3の赤字路線が走っていた」と書かれているのは、旧美幸線のこととも取れる。 仁宇布には300頭の羊を放牧している牧場もあるし、なにより、美深町に点在する16の滝は、まとめて「仁宇布の十六滝」と呼ばれているのだ。
村上春樹が認めているわけではないのであくまで「説」なんだけど、ここまで情報がかぶっていると、十二滝町=美深町説は有力な気がする……ということで、羊牧場やトロッコ王国にも村上春樹のファンが多く訪れるという。
僕はハルキストではないけど、「赤字路線」をトロッコで走りながら、『羊をめぐる冒険』を読むという新しい楽しみ方を試してみることにした。ちなみに、僕が本を持って自撮りした際に持っていた上巻に十二滝町は出て来なくて、下巻から登場するから、『羊をめぐる冒険』を未読で、トロッコ読書したい人は要注意だ。