会社員として働きながら、これからどう生きようかを模索していた社会人1年目、堀さんは農業に可能性を感じるようになっていた。個性がある高品質の作物を育て、「堀さんだから買う」というファンを作ることができれば、会社や人間関係に縛られずに生きることができる。
農業をするなら米か、トマトか、シイタケか……と考えていたある日、たまたまテレビで岡山県の吉備高原で放牧酪農とチーズづくりを行う吉田牧場を取り上げた番組を観て、心を鷲づかみにされた。自分の土地で牛を育て、その牛乳でチーズを作るということは、原料から食品になるまで一貫して手掛けるため付加価値をつけやすくなる。そのうえ、食品を作るという面白みも加わる。
「これだ!」
吉田牧場に理想の生活を見て、酪農家兼チーズ職人になろうと心に決めた堀さんだが、きっちり3年間、会社員を続け、その間に結婚もした。
理系出身の堀さんは、夢に浮かれて無謀なチャレンジをするタイプではない。「自分の力で生きる」ためにどうすればいいのか、理詰めで考え、それを実現するために現実的な判断をする。会社員を続けたのも、「3年経ってもやりたかったらやろう」と考えてのことだった。
3年経っても酪農家兼チーズ職人になろうという想いが冷めることはなく、堀さんは2016年4月、北海道の上川郡新得町に渡る。多くの研修生を受け入れてきた実績のある共働学舎新得農場で、チーズ作りを学ぶためだ。