
20歳を超え、日本で改めてお酒を口にするようになると、自分が「のんべい」だと気づいた。いつしか、いきつけの酒屋でお酒を選ぶようになっていたエレナさんは、考えた。
「大学に行かないと、これから就職も大変そうだ。でも親には頼れない。自分のお金で大学に行くなら、将来、お酒の仕事につながる大学に行こう」
目指したのは、醸造学科のある東京農業大学。ただ、エレナさん自身は理系が得意ではなかったので、フードビジネスを学ぼうと、2012年、23歳の時に東京農大の国際食料情報学部食料環境経済学科に進んだ。
迎えた大学1年生の夏休み、お盆の時期に会津に行った。そこで泊まった旅館の壁に、一枚のポスターが貼られていた。そこには、こう記されていた。
「NOT WINE NOT BRANDY NOT SAKE IT'S MEAD」
エレナさんは、目を疑った。お酒好きとして、「Mead」が蜂蜜酒「ミード」のスペルであることはわかる。しかし、存在を知っている程度で、飲んだこともない。会津で「it's Mead」と書かれたポスターの意味を理解する人は、どれぐらいいるのだろう? それに、ずいぶんとおしゃれな雰囲気のポスターながら、ミードがどんなものか、わからないデザイン。謎かけするようなそのセンスも気になった。
そのポスターには、峰の雪酒造場と記されていた。宿の女将に「これ、なに?」と聞くと、峰の雪酒造場の社長と親しいという女将は「旅は道連れ」とエレナさんを車に乗せ、隣町の喜多方市にある峰の雪酒造場へ向かう。
そこには、息子に日本酒の醸造を任せ、ミード造りに精を出す4代目社長、佐藤利也さんがいた。女将とエレナさんを歓迎した佐藤社長は、タンクのなかで発酵している最中の「生ミード」を飲ませてくれた。一口で、エレナさんのテンションは最高潮に達した。
「なにこれ! ヤバい!」
初めてのミードに心を奪われたエレナさんの胸の内に、「私もこれを造りたい」という思いが込み上げてきた。その思いは、ミードを入れたタンクのなかでプクプクと湧いている無数の気泡のように、決して途切れなかった。