
エレナさんは、スカパーの営業時代の貯金に加えて、アルバイトで自分の学費を稼ぎながら大学に通っていた。懐にはまったく余裕がなかったけれど、お酒について学ぶために、休みの日には日本中の酒蔵を巡った。それで、当初の予定より早くお金が尽きてしまった。
2014年、「本当は卒業まで通いたかった……」と後悔を抱えながら、大学を中退。日々の生活費を稼ぐため、ヤフーに就職する。ヤフーは2013年秋から「Yahoo!ショッピング」とオークションサイト「ヤフオク!」の出展料を無料にするなど、「eコマース革命」に力を入れていた。「Yahoo!ショッピング」の出展者に広告を売るECコンサルタントとして採用されたエレナさんは、希望通りお酒を売る出展者の担当になった。ここで、オンラインでお酒をどう売るのか、実践的に学ぶ。
「大学生の時に酒蔵を訪ねてわかったのは、『いくら作品のようなお酒を造っても、それを売らなきゃしんどい』ということです。その頃、日本酒の売り上げは低迷していて、たくさんの酒蔵が潰れていました。酒蔵が生き抜くためには、売る方法を考えなきゃいけません。利益率を考えると、お酒を売るならオンライン通販は絶対に欠かせないんですよ」
お酒の仕事に就くことを諦めず、将来、ヤフーでの経験を必ず活かそうと考えていたエレナさん。その背中を力強く押してくれたのは、2016年に赤ちょうちんで出会い、翌年に結婚したIT企業の経営者、工藤宏樹さんだった。
「付き合っている時に『ミードを造りたい』と話したら、夫から『家を建てるのも蔵を作るのも同じぐらいのお金が必要だから、どっちか選んで』と言われて、『蔵!』と即答したんです(笑)。それなら造り始める前に酒類販売免許を取るべきだと言われました。それから私の師匠(峰の雪酒造場の佐藤社長)に頼んでミードを委託製造して、どれだけ売れるか試したほうがいいという現実的なアドバイスをもらいました」
そこで「やったろうじゃない!」と気合いが入ったエレナさんはヤフーを退職し、すぐに酒類販売免許を取得。夫が会社内に新設した酒類部門に所属する形で、峰の雪酒造場と組んでミードの開発と販売に乗り出す。