
午前4時20分。漁を終えて港に戻ると、仕分け作業が始まる。
船から水揚げされた魚は、機械を通し、大きさごとに分けられる。それを、手作業で種類ごとに分けていく。私は酒井社長に聞いてみたいことがあった。新鮮な魚の見分け方についてだ。自分で魚を目利きできれば、刺身も自分でさばくことができるのではないかと、思ったからだ。
「まず目を見ます。瞳の黒い部分が丸く飛び出していれば新鮮。へこんでいたら日が経ってます。お刺身にはよくない」
酒井社長の説明は実践的だった。
「肛門から体液が出ている魚も鮮度が落ちています。あとは、エラね。あずき色なら新鮮、時間が経過したものはピンク色になります。一番分かりやすいのは匂い。新鮮な魚は匂いがしないから」
その日は"シイラ"がよく獲れたと教えてくれた。シイラは「マヒマヒ」とも呼ばれる大型の回遊魚で、大きな頭部と独特な顔つきをしている。正直あまり食べたいと思える姿の魚ではない。
「シイラは昔、キロ10円の安い魚でした。吹き出物が出るって迷信があってね、特に女性に敬遠されてました」
しかし現在では海外への輸出も多く、ハワイでは高級魚として扱われている。魚の価値は時代とともに変わるものらしい。
知識が乏しかった魚について少し詳しくなったことで満足した気分になっていた。