未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
306

溢れる言葉のフィールドを歩く 日本唯一の現代詩歌の総合文学館 日本現代詩歌文学館

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.306 |10 June 2026
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#3日本現代詩歌文学館ができるまで

井上靖の直筆原稿

続いて同じ2階の「井上靖記念室」に移動する。
井上靖(1907~1991)といえば、いうまでもなく昭和の文豪だ。自伝的小説や、歴史小説、社会問題を扱ったものまで幅広いテーマで描き、そのなかから映画化されている小説も数多い。私も子どものころに『天平の甍』などの歴史小説を読み漁っていた。しかし恥ずかしながら井上靖が詩人でもあった、というのは知らなかった。そして井上靖は、ここ日本現代詩歌文学館の名誉館長でもあるのだという。

それにはこの文学館の設立背景が大きく関わっている。実はこの文学館ができたきっかけは1980年代初頭に「東京周辺の詩歌人や出版関係者たちの『詩歌専門の文学館が欲しい』という声から始まったのです」と八木澤さん。

折しも当時の日本は博物館や美術館の新築ブームでもあった。その頃、市制30周年を迎えようとした北上市が、詩歌専門の文学館設立運動を積極的に受け入れ、この地に現代詩歌文学館が建てられることになったのだ。 この運動の中には井上靖や大手出版社も深く関わっていた。 特に「井上靖は先頭に立ってこの設立運動を進めていった」と八木澤さん。そして1990年に日本現代詩歌文学館が開館し、井上靖は名誉館長となったのだった。

それにしても当時の詩歌人たちのバイタリティには驚かされてしまう。作家たちによる、作家たちのための博物館を立てようと運動し、それが実際に建った! ということにも。好景気の時代背景もあっただろうが、「いまの私たちでは思いつかないスケールですよね」と私が思わず言うと、学芸員の二人も頷いていた。

この部屋に展示されている、井上靖による詩の響きの美しさもさることながら、青いインクの万年筆で書かれた井上靖の文字そのものも大変美しい。詩歌を「直筆で読む」価値を、この部屋でも再び感じたのであった。

詩歌文学館には、もうひとつ大きな目玉がある。それが「詩歌文学館賞」だ。毎年、1年間に刊行された詩、短歌、俳句の個人作品集のなかから、それぞれ最も優れたものに贈る賞で、現在では日本の詩歌文学の代表的な賞として広く知られている。そしてこれも、実は井上靖の提唱によって設けられたものだという。

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