日本現代詩歌文学館では、学芸員の八木澤卓さんと菅原わかばさんが出迎えてくれた。
日本現代詩歌文学館では毎年テーマを変えて常設展示を行っており、2026年度のテーマは「いのちを継ぐ―農業と詩歌」だ。現代の詩、短歌、俳句、川柳の直筆作品57点が空間を彩っている。
広々とした展示室に並ぶのは、柔らかな照明のなかに浮かび上がるように配置された詩歌の数々。それらはすべて作者の息遣いが聞こえるような「直筆」の作品だった。墨と筆で力強く書かれたもの、万年筆で繊細に綴られたもの、短冊や色紙だけでなく、何気ない紙片に書き残されたものまである。
文学資料の展示は「作家直筆の展示には、活字と違った魅力がある」と八木澤さんが説明する。そうか、例えば美術館で絵画の筆跡から画家の試みや感情に思いを馳せるように、詩歌もまた、支持体(美術や書の制作において、絵の具や墨をのせる、作品の基盤となる素材のこと。書では主に紙や布などを指す。)とそこに書かれた文字から作品を感じ取るものなのだと、改めて実感したのであった。
展示の企画・選定プロセスについて、八木澤さんは「社会情勢なども踏まえながら、いま、詩歌を通して向き合うべきトピックはなにかを学芸員チームで出し合います」と語る。このテーマの背景には、実は今回の企画を初めて担当した二年目の学芸員・菅原さんの前職が農業関係だったことも関係しているという。
「日常的にあるものをテーマにして、詩歌という作品を通して改めて見てみる、そういう機会になればと思ってテーマを決めてます。身近なものを詠むというのは、詩歌の伝統的な流れのひとつでもありますしね」と八木澤さんは続けた。
さらに作家選定では、有名無名を問わずテーマへの適合性を最重視するという。年齢や居住地が異なる作家を意図的に組み合わせており、農業に携わっている作家が書いたものも多くあるが、消費者として農の恩恵を歌った作品もある。作品ひとつひとつを読んでいると、人々と農にまつわるさまざまな感情と距離感があり、多様な視点が交錯する空間となっているのがわかるのだった。
さて展示室の奥に、小さな紙片いっぱいに書かれた川柳作品を見つけた。川柳作家、福士かれんさんの作品だ。
うつくしい罅(ひび)ひとりでに発芽する かれん
雪深く厳しい自然の青森で、食や農の仕事に携わってきた彼女ならではの、シンプルで、でも目の前で生きている、小さなものの世界に真っ直ぐに目を向けた川柳だ。「ああ、かれんちゃんらしい句だな」と胸を打たれた。


展示の中央には来館者参加型インスタレーションもあった。そういえばかれんさんが、「文学館は常設展の中にあるインスタレーションも毎回おもしろいですよ」と言っていたっけなあ。
農業関係の仕事をしていた菅原さんが企画した今回は「未知なることばを待つ畑(フィールド)」と題し、来館者が「ことばの苗」にメッセージを書いて地面に挿す体験型展示となっている。「展示の終わりまでには、ここがことばの苗でいっぱいになるでしょうね」と菅原さんは静かに語ってくれた。