閲覧室を後にした私は、一般の人はふだん入れない日本現代詩歌文学館の心臓部、すなわち「書庫」へと案内された。
足を踏み入れると、そこは本と静寂に包まれた空間だった。建物は三階建ての構造になっており、一階には俳句と川柳、二階には詩、三階には短歌と、分野ごとに整然と分類されて資料が並んでいる。現在ここに収蔵されている資料は、実になんと140万点以上にのぼる。これほどまでに大量の雑誌や資料を、しかも詩歌の全分野にわたって網羅している博物館は、日本で唯一である。有名無名の詩歌の「言葉の記憶」が、この巨大な空間に集約されているのだ。
この膨大な資料は基本的には全国の作り手たちの寄贈によって集まってきたものなのだという。隣接する作業室では、雑誌の地道な保護作業が行われていた。デジタル化の時代にあっても、当館は「現物保存」を最優先としている。図書には糊付けをせず、着脱可能な特注カバーを一枚一枚、手作業で微調整しながら被せていく。収蔵品のなかには戦前のものなども多くある。刊行当時の状態を維持するための職人技のような作業が、この140万点のコレクションを守っているのだとも言える。
日本国内だけでこれほどまでに膨大な資料が集まる背景には、日本と海外における「詩人の地位の違いもある」と八木澤さんは教えてくれた。海外では詩人の社会的地位が非常に高く、限られた存在であることが多い。それに対して日本では、古くから詩歌が日常に深く溶け込んでいる。「誰もが気軽に言葉を紡ぐ文化があるからこそ、圧倒的な数の作品が生まれるんですよね」と八木澤さんは続けた。
この文学館は2014年に設立された日本現代詩歌文学館運営協会によって、現在は指定管理団体として地元・北上市から委託を受ける形で運営されている。保管物の削減が求められるいまの時代において、現物保存に理解を示す自治体の支援も極めて大きいのではないか、と私が尋ねると、八木澤さんは頷いた。地域に根ざしながら、日本全体の言葉の文化を文字通り「永久保存」する。外からは知られざる、しかしその重大で地道な使命の重みが、書庫をひたひたと満たしているような気がした。