数日後、岩手サファリパークに向かった。東北新幹線の一ノ関駅から車で約40分。対向車がほとんどこない長閑な山道をグルグルグルグル登っていくと、館ヶ森という高原に着く。牧場や農園が広がるこの広大な土地の一角に、岩手サファリパークはある。
少し緊張しながら事務所を訪ねると、菅野支配人がきょとんとしていた。いかにも穏やかそうなその目は明らかに「どちらさま?」と問うている。あれれ? と思いつつ、飼育係、アニマルトレーナーの1日体験をさせて頂くという取材で伺いました、と告げると、支配人、思い出してくれたのか「あ~! ネクスコさんの……」と頷いた後、こう言った。
「サルでしたっけ?」
ずっこけそうになりながら、僕は答えた。
「あ、ゾウでお願いします!」
「あ、そうでしたね」と頷く支配人。そして、僕の案内役に指名されたのは副支配人の中鉢徳博さんだった。
宜しくお願いします、と名刺を交換しながら、僕の目は中鉢さんにくぎ付けだった。
細身のパンツにゴツいブーツ、身体にフィットする上着に、重そうな腕時計。眉毛や髪形もビシッと整えられている。どこからどう見ても、渋谷や原宿で良く見かけるようなロックとかビジュアル系のバンドマンだ。
鷹揚な支配人と、バンドマン風の副支配人。岩手サファリパーク、なんだか面白いぞ。

川内イオ