
頭を振り乱してギターをかき鳴らしていそうないでたちのせいか、中鉢さんは一見、とっつきにくそうに見えるけど、とても温かく親切な方で、僕の訪問を知らなかったにもかかわらず、丸1日、僕に付き合ってくれた。
まずは、ゾウとゾウ使いを紹介してもらった。
ゾウの名前は、ブンミー(35)とカンピアン(28)。この2頭のメスには、復興親善大使という立派な役職がある。ラオス政府による東日本大震災の復興支援として、2012年10月から岩手サファリパークに貸し出されているのだ。もともと3年契約で、契約満了となった昨年、さらに契約を3年延長。今のところ2018年まで岩手にいることになっている。
そして、ブンミーとカンピアンを操るのが、ラオス人のゾウ使い、シンサイさん、ドゥアンさん、ホンさん。3人のうち、ホンさんは2012年から滞在していて、シンサイさんとドゥアンさんは昨年9月、契約が満了したほかの2人と入れ替わりで日本に来た新人。
僕が訪ねた日、ホンさんは休日でシンサイさん、ドゥアンさんが働いていた。
シンサイさんは31歳で、ゾウ使い歴18年! 日本に来る前には韓国で2年間、ゾウ使いとして働いていたそうだ。水牛の角をくりぬいて作った笛「サナイ」を吹くのが得意で、プオーン、プオーンという牧歌的な音色は、ラオスの田園風景を思わせる(行ったことないけど)。いつも笑顔で、お客さんがいないときもゾウと戯れたりしていて、なんだかとても楽しそうに働いている。
ドゥアンさんは28歳で、話しかけるとはにかんだような笑顔を浮かべるシャイな青年。日本に来る前はお米を作っていたのだけど、出身地であるラオス北西部のサイニャブリ県では、材木運搬や畑の耕作のためにゾウが使われていて、中鉢さん曰く、「日本人の子どもが自転車の乗り方を憶えるように、サイニャブリ県の子どもたちは6、7歳でゾウに乗るようになる」そうで、ドゥアンさんも日常的にゾウに乗っていたから、扱いはお手の物。
この日、休日だったホンさんは34歳、ゾウ使いのリーダーとして腕前もピカイチ。勉強熱心で、3年間、日本語を熱心に学び、平仮名も書けるようになったという。
ちなみに、ブンミーとカンピアンの2頭はラオスで捕獲されて日本にやってきたわけではない。カンピアンのオーナーはシンサイさんで、ブンミーのオーナーはホンさん。ふたりとも、ラオスで長い間2頭の世話をしてきたから、強い信頼関係で結ばれている。その証拠に、2頭はそれぞれのオーナーの言うことを一番よく聞くんだって。
――と一通り説明を聞いていて、ゾウ使いがゾウのオーナーも兼ねているという話にも驚いたんだけど、なによりもビックリしたのはバンドマン風の中鉢さんが、ラオス語を流ちょうに操っていたこと。
もともと勉強していたのですか? と尋ねると、ちょっと恥ずかしそうに首を振った。
「2012年にゾウとゾウ使いが来た時に、お互いに言葉を教え合いながら憶えたんです。発音が難しくて大変でしたけどね」
労務や人事の管理が副支配人の仕事だから、ゾウ使いとコミュニケーションを取るのも必要なこととはいうけれど、日常の業務をしながら全く馴染のない外国語を学ぶのは簡単なことじゃない。シンサイさん、ドゥアンさんが2頭のゾウを撫でながらバンドマン風の中鉢さんとラオス語で、笑顔で話している様子を見ていると、良い意味での違和感が満載で、一瞬、ここがどこだかわからなくなった。

川内イオ