未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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“天空のサバンナ”でソンと叫ぶ!

熱狂のゾウ使い1日体験記!

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.65 |20 April 2016
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#6ゾウを見て、触って大喜びの子どもたち

お客さんを乗せてお仕事中のブンミーとドゥアンさん。
ゾウライドを終えたら、お礼の「えさやり」。「ゾウは人間と同じで甘いモノが好きだから、フルーツが大好物なんです」(中鉢さん)

 10時頃、父、母、娘の3人家族がやってきて、母と娘がゾウに乗った。ゾウは重さなど感じていないかのように悠々とコースを一周し、子どもは終始、ワー! キャー! とハイテンション。ゾウライドは、終わった後の「ゾウのえさやり」もセットになっていて、そこでも、ワー! キャー! 言いながらゾウにえさをあげていたその女の子に話を聞くと、「(ゾウの背中の上は)高くてすごく楽しかった!」と大はしゃぎで、「もう1回乗りたい!」とおねだりされたお父さんは、苦笑い。
 中鉢さんは、この子どものリアクションが一番の仕事のやりがいだという。
「動物園では柵越しに遠目で見るしかなかったゾウに、ここでは背中に乗ったり、えさをあげたりして触れ合うことができる。そうすると、子どもがみんな大喜びするんですよ。東日本大震災の後、客足が落ちて、気分も沈んでいる時にゾウが来て、子どもたちが喜んでいる様子を見て、気持ちが晴れました」
 日本でゾウライドを体験できる施設は、岩手サファリパークを含めて数カ所しかない。岩手サファリパークのお客さんは岩手近県の人が多いそうだけど、ほとんどの子どもたちにとって、ゾウに乗る、ゾウに触れるのは初めての体験なのだろう。
 最初のお客さんの後、僕もゾウに乗る場所でお客さんのサポートをしていたけど、ほとんどのお客さんは家族連れで、どこの子どももみんなとにかく嬉しそうだった。その笑顔を見て、まだ言葉があまりわからないゾウ使いのシンサイさん、ドゥアンさんも微笑む。
 昨今、本来の生息地域に及ばない狭く閉ざされた環境で動物が飼育されることに対して動物園には批判もあるし、僕もその批判に同意する部分もある。
 でも、ゾウに関しては少し事情が違う。中鉢さんによると、アジアではゾウは長らく家畜として材木を運ぶ仕事などをしてきたのだけど、森林を保護するために伐採が厳しく制限された結果、人間と一緒に働いていたゾウは失業して「厄介者」として扱われているという。幼い時から家畜として飼われてきたゾウを自然に帰してもうまく生きていけない可能性が高いし、そもそも環境破壊によって野生のゾウが生きていける自然が失われてきている。そこで、タイに拠点を置くアジア産野生生物研究センターが主導して、人間のパートナーとして働いてきたゾウを保護し、仕事を与えるために、海外の動物園にゾウを提供してゾウライドなどを行っているそうだ。
 岩手サファリパークではゾウが信頼するオーナーと一緒にいること、お客さんがいない時は、「ゾウの村」のなかで自由気ままに過ごしていること、そしてまだまだ復興の道半ばである被災地の東北の子どもたちに貴重な機会を提供していることを考えると、存在意義は大きいと思った。

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未知の細道 No.64

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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