未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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“天空のサバンナ”でソンと叫ぶ!

熱狂のゾウ使い1日体験記!

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.65 |20 April 2016
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#8色あせないロックの魂

「動物に興味はなかった」のに、ブンミーとカンピアンの愛らしさと賢さに今ではすっかりメロメロの副支配人

 というか、なんでバンドマンのファッションなのかがどうしても気になる! ということで、ランチタイムに話を聞いたら、やっぱり若かりし頃はバンドマンで今も音楽が大好きとのこと。それにしても、動物園の職員っぽくないですね? と尋ねたら、良く言われますと笑っていた。
「若い頃はフラフラしてたんですけど、音楽で飯を食っていくのは難しいんですよね。だから、地元の那須にいる時に那須のサファリパークで事務の仕事の求人があったので、応募したら採用されたんです。でも、自分のスタイルを曲げたくないじゃないですか。だから今もこのファッションなんですよ」
 正直、岩手の山奥のサファリパークで中鉢さんの格好は浮きまくっている。でも、他人の目を気にせず信念を貫く元バンドマンから色あせないロックの魂を感じたのであった。
 服装はバンドマンでも、職場としてサファリパークを選んだのだから、もともと動物は好きなのかと思ったら、「生活のための仕事で、動物に興味はなかった」という中鉢さん。

中鉢さんに影響を受けて、すっかりバンドマン風ファッションのホンさん。でもゾウ使いとしての腕は一流

 それが、那須や岩手でゾウに接するようになって変わったそうだ。
「ゾウはとても賢い動物で、一緒にいればいるほどわかり合える。ブンミーは大人しくて穏やかで、カンピアンはいたずらっ子と性格も違うけど、ちゃんと僕のことを認識していて、指示も聞いてくれる。それは、かわいくなりますよね(笑)」
 ほら、と言って中鉢さんがカンピアンに「ヴォンソン!」と声をかけると、カンピアンは鼻を高々と上げた。これはゾウ使いの言葉で「鼻を上げて」という意味になるそうだ。
 ほかに「ハオ=待て」、「ニンディ=グッド」、「ドゥーン=もっともっと」「ソン=足を上げる」などの言葉があり、ゾウは信頼している人の指示であれば応じて見せる。
それでは、と僕がカンピアンに「ソン!」と指示を出すと、完全に無視をされた。うまく伝わらなかったのかと「ソン!」を連発するも、鼻をブラブラさせながらそっぽを向いている。シンサイさん、ドゥアンさん、中鉢さんがぷっと噴き出したように聞こえたのはきっと勘違いだろう。
 お客さんのサポートをしつつゾウと遊んでいると、この日は休日だったホンさんが私服で遊びに来た。革ジャンに細身のパンツで、短い髪の毛はジェルでビシッと整えられている姿は、ゾウ使いにみえない。ていうか、この服装、どこかで見たことが……と思ったら、中鉢さんが僕の疑問に答えくれた。
「ホンさんにあのファッションを教えたのは僕なんです。あの細身のパンツは、ぼくのおさがりですから」
なるほど納得! 日本滞在3年半のホンさんは、中鉢さんから影響を受けてすっかりバンドマン風のファッションにはまっているそう。「この服装でラオスに帰ったら、家族が驚愕するんじゃないですか? 劇的ビフォーアフターすぎますね!」と言うと、中鉢さんは上司と部下というよりも、かわいい弟分の成長(ファッション)を楽しむように微笑んでいた。

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未知の細道 No.64

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。