未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
65

“天空のサバンナ”でソンと叫ぶ!

熱狂のゾウ使い1日体験記!

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.65 |20 April 2016
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#9ゾウに認めてもらった瞬間

最初はよそよそしかったゾウ達も、次第に空気を読まずベタベタしてくる僕の存在を認めてくれるようになった

 カンピアンに「ソン!」の指示を無視されて若干の敗北感を味わった僕だけど、一日が終わりに近づいた頃、俺もついに存在を認められた! と思える瞬間が訪れた。
 あまりに気持ちの良い青空の日に、大好きなゾウ、憧れのゾウ使いと一緒に時間を過ごせていることに昇天気分になり、思わずボーっとしていたら、柔らかい感触の何かに腰のあたりをツンツンとつつかれた。
 振り向くと、それはカンピアンの鼻だった。
 なになに? どうした? と思わず尋ねたら、なぜか、でも確かに、カンピアンの声が脳みそにビビッと伝わってきた。
「そっちに行きたいから、ちょっとどいて」
 あ、ごめん、ごめん! と道を開けると、象は悠然と歩き去っていった。
 この一瞬の交流で、カンピアンに認められた気がしたのである。ゾウは人間の手のように鼻を使う。好きじゃない人が近くにいると鼻を使って押しのけたり、時には鼻で地面を叩いて威嚇することもあるそうだ。
 カンピアンが僕にした「ツンツン」は、人間を傷つけないように完璧に力の下限を配慮した、とても優しいものだった。
 中鉢さんが、「取材に来て、こんなに長くゾウのところにいた人はいない」と苦笑するほどゾウにベタベタし、話しかけていた効果が最後の最後で出たのだろう。

サファリパークの動物たち。ゴールデンウイークには、ホワイトタイガーの子どもも加わるそう。今年は申年なので、サファリパークに入園するとモンキーセンター(フラミンゴショー、サル劇場、ふれあい広場)も入場無料に!

 岩手サファリパークにきたのだから、サファリを体験しなくては! とバスにも乗せてもらった。同乗者は、親子連れとカップル。草食動物には窓からえさをあげることができるのだけど、お父さんに連れられた少年は、窓のすぐそばまで寄ってくる動物たちを見てテンションが上がり過ぎ、序盤にえさをすべて与えてしまい、続けてお父さんのえさも全て使い果たしていた。カップルは、少年の大騒ぎもどこ吹く風のスイートタイムで、「キリン、かわいい、ウフフ♡」「ライオン、かわいいね、えへへ♡」「シマウマ、かわいいわ、オホホ♡」となんでもかわいいらしく、「水牛、かわいい♡」「そうだね♡」という会話を聞いた時はさすがに、心の中で「ほんとか!?」と突っ込んでいた。
 動物好きの僕も、世界に30頭ほどしかいないというホワイトタイガーの写真を撮ったり、窓からキリンにえさをあげて指をベロリと舐められたり、暇そうなライオンをこちらに向かせるために念を送ったりとサファリタイムを満喫。でも、少年と父とカップルの姿を見ていて、ひとりだと盛り上がりに欠けるから今度は家族で来ようと少し寂しくなって、ゾウの村に戻った。またブンミー、カンピアンにベタベタしようと思ったのだけど、2頭は柵に寄り掛かったりして、明らか気だるそう。あれ、どうした? と思ったら、ゾウは時間の感覚もわかるらしく、終業時間が近くなると「ダレる」らしい。マジっすか!? 面白すぎる、ゾウさんよ。でも気持ちはわかる。
 そして終業の16時、背中に背負ったかごから解放されると、ブンミーとカンピアンは、誰に指示されることもなく足早にゾウ舎に帰っていった。

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未知の細道 No.64

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。