
カンピアンに「ソン!」の指示を無視されて若干の敗北感を味わった僕だけど、一日が終わりに近づいた頃、俺もついに存在を認められた! と思える瞬間が訪れた。
あまりに気持ちの良い青空の日に、大好きなゾウ、憧れのゾウ使いと一緒に時間を過ごせていることに昇天気分になり、思わずボーっとしていたら、柔らかい感触の何かに腰のあたりをツンツンとつつかれた。
振り向くと、それはカンピアンの鼻だった。
なになに? どうした? と思わず尋ねたら、なぜか、でも確かに、カンピアンの声が脳みそにビビッと伝わってきた。
「そっちに行きたいから、ちょっとどいて」
あ、ごめん、ごめん! と道を開けると、象は悠然と歩き去っていった。
この一瞬の交流で、カンピアンに認められた気がしたのである。ゾウは人間の手のように鼻を使う。好きじゃない人が近くにいると鼻を使って押しのけたり、時には鼻で地面を叩いて威嚇することもあるそうだ。
カンピアンが僕にした「ツンツン」は、人間を傷つけないように完璧に力の下限を配慮した、とても優しいものだった。
中鉢さんが、「取材に来て、こんなに長くゾウのところにいた人はいない」と苦笑するほどゾウにベタベタし、話しかけていた効果が最後の最後で出たのだろう。




岩手サファリパークにきたのだから、サファリを体験しなくては! とバスにも乗せてもらった。同乗者は、親子連れとカップル。草食動物には窓からえさをあげることができるのだけど、お父さんに連れられた少年は、窓のすぐそばまで寄ってくる動物たちを見てテンションが上がり過ぎ、序盤にえさをすべて与えてしまい、続けてお父さんのえさも全て使い果たしていた。カップルは、少年の大騒ぎもどこ吹く風のスイートタイムで、「キリン、かわいい、ウフフ♡」「ライオン、かわいいね、えへへ♡」「シマウマ、かわいいわ、オホホ♡」となんでもかわいいらしく、「水牛、かわいい♡」「そうだね♡」という会話を聞いた時はさすがに、心の中で「ほんとか!?」と突っ込んでいた。
動物好きの僕も、世界に30頭ほどしかいないというホワイトタイガーの写真を撮ったり、窓からキリンにえさをあげて指をベロリと舐められたり、暇そうなライオンをこちらに向かせるために念を送ったりとサファリタイムを満喫。でも、少年と父とカップルの姿を見ていて、ひとりだと盛り上がりに欠けるから今度は家族で来ようと少し寂しくなって、ゾウの村に戻った。またブンミー、カンピアンにベタベタしようと思ったのだけど、2頭は柵に寄り掛かったりして、明らか気だるそう。あれ、どうした? と思ったら、ゾウは時間の感覚もわかるらしく、終業時間が近くなると「ダレる」らしい。マジっすか!? 面白すぎる、ゾウさんよ。でも気持ちはわかる。
そして終業の16時、背中に背負ったかごから解放されると、ブンミーとカンピアンは、誰に指示されることもなく足早にゾウ舎に帰っていった。

川内イオ