取材した日には、山田高校で二人のトレーニングの様子を見せてもらった。黙々と筋トレを続ける拓海くんの横で、これまで25キロのベンチプレスが最高記録だったという勇也くんが、30キロの重しをつける。それを見た小田島先生が「お、取材が入ると違うな。これから、架空の取材を作った方がいいかもな。さあ、勇也くんが30キロに挑戦します!」と言うと、勇也くんは「やめてくださいよ~、そういうこと言われるとマジで持ち上がらないんで」とあっさり泣きごとをいって笑いを取る。微笑みながらそのやり取りを眺めつつ、勇也くんをサポートする位置に入る拓海くん。
この様子を見て、なんともほっこりした気持ちになった。「横綱になる!」という勇也くんと、それを笑顔で応援する拓海くんという構図は、いつもの二人の関係なのだろう。
僕も二人の輪に加わりたくなって、力比べをさせてください、とお願いした。
拓海くん、勇也くんと押し合ってみる。
力の強さには少しばかり自信があったのだが、ガチンコで押してみても、拓海くんはビクともせず、余裕の表情。逆に、押してみてくださいと頼んだら、1秒ももたずに体制を崩された。さすが、岩手県の強化指定選手!
勇也くんは、僕が気合い全開で力を入れると少しグラッとしたが、その後はやはり微動だにしない。中学1年生に力負けしたことに少なからずショックを受けたが、勇也くんが将来、横綱になったら力比べしたことを自慢できるだろうと自分を納得させる。

川内イオ