未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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山田町で受け継がれる相撲の絆

兄弟弟子で目指す横綱の道!

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.66 |10 May 2016
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#8二人の少年と力比べ

中学1年生との力比べに負ける37歳の図

 取材した日には、山田高校で二人のトレーニングの様子を見せてもらった。黙々と筋トレを続ける拓海くんの横で、これまで25キロのベンチプレスが最高記録だったという勇也くんが、30キロの重しをつける。それを見た小田島先生が「お、取材が入ると違うな。これから、架空の取材を作った方がいいかもな。さあ、勇也くんが30キロに挑戦します!」と言うと、勇也くんは「やめてくださいよ~、そういうこと言われるとマジで持ち上がらないんで」とあっさり泣きごとをいって笑いを取る。微笑みながらそのやり取りを眺めつつ、勇也くんをサポートする位置に入る拓海くん。
 この様子を見て、なんともほっこりした気持ちになった。「横綱になる!」という勇也くんと、それを笑顔で応援する拓海くんという構図は、いつもの二人の関係なのだろう。
 僕も二人の輪に加わりたくなって、力比べをさせてください、とお願いした。
 拓海くん、勇也くんと押し合ってみる。
 力の強さには少しばかり自信があったのだが、ガチンコで押してみても、拓海くんはビクともせず、余裕の表情。逆に、押してみてくださいと頼んだら、1秒ももたずに体制を崩された。さすが、岩手県の強化指定選手!
 勇也くんは、僕が気合い全開で力を入れると少しグラッとしたが、その後はやはり微動だにしない。中学1年生に力負けしたことに少なからずショックを受けたが、勇也くんが将来、横綱になったら力比べしたことを自慢できるだろうと自分を納得させる。

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未知の細道 No.66

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。