未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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思い出から生まれる「未来」のカケラ

諏訪の「リビルディング・センター」はただの古材屋ではありません!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= ReBuilding Center JAPAN
未知の細道 No.87 |25 March 2017
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#4芸術工学×文学部

 もちろん、最初からふたりで一緒にやってきたわけではない。少しさかのぼると、アズノさんは、名古屋市立大学芸術工学部を出た後、空間デザインの会社に勤め、2010年には世界一周の旅に出て、帰国後にフリーのデザイナーになった。

 フリーの最初の一年は、東京の展示会のブースのデザインなどを手がけていたが、転機となったのは、2012年に東京、蔵前のゲストハウス、Nui. HOSTEL&BAR LOUNGEをデザインしたことだ。

 外から見ると、ニューヨークのようなインダストリアルで無国籍な雰囲気だが、中に入ると無垢材をふんだんに使ったスタイルが特徴。その木材は時が経つうちに古材のような味わいが出て、Nui. HOSTEL&BAR LOUNGEは今や東京で最も人気のあるゲストハウスの一つだ。

「その時に入っていた大工さんたちは、全国どこでも泊まり込みで作るというスタイルで施工をしていました。彼らカタチも考えられるし、仮にデザイナーがいなくても、なんでも作れるみたいな人たちだった」

 この時の経験をきっかけに、アズノさんの旅人的ワークスタイルが確立した。

 一方のカナコさんは、大学の文学部を卒業して、大手コーヒーチェーンに就職。店長を務めた後、東京のゲストハウスで女将として働いた。そして、そのカナコさんとアズノさんは、ツイッターで南米の旅行情報を交換するうちに親しくなったそうだ。

「夫はハード面からいい空間とは何かを考え続けて、私はソフト面からいい空間とは何かを考え続けてた。だから、一緒にできるねということで、一緒に仕事を始めました」

 というわけで、文学部、芸術工学部、設計、コーヒー、料理、ゲストハウスなどの諸々の知識や経験が詰め込まれたmedicalaが誕生し、二人の旅が始まった。カナコさんは、最初は工事現場に入ったこともなければ、設計や施工の知識もなかったが、今や「なんでもやります。解体も!」という頼もしい存在である。

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未知の細道 No.87

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。