
もちろん、最初からふたりで一緒にやってきたわけではない。少しさかのぼると、アズノさんは、名古屋市立大学芸術工学部を出た後、空間デザインの会社に勤め、2010年には世界一周の旅に出て、帰国後にフリーのデザイナーになった。
フリーの最初の一年は、東京の展示会のブースのデザインなどを手がけていたが、転機となったのは、2012年に東京、蔵前のゲストハウス、Nui. HOSTEL&BAR LOUNGEをデザインしたことだ。
外から見ると、ニューヨークのようなインダストリアルで無国籍な雰囲気だが、中に入ると無垢材をふんだんに使ったスタイルが特徴。その木材は時が経つうちに古材のような味わいが出て、Nui. HOSTEL&BAR LOUNGEは今や東京で最も人気のあるゲストハウスの一つだ。
「その時に入っていた大工さんたちは、全国どこでも泊まり込みで作るというスタイルで施工をしていました。彼らカタチも考えられるし、仮にデザイナーがいなくても、なんでも作れるみたいな人たちだった」
この時の経験をきっかけに、アズノさんの旅人的ワークスタイルが確立した。
一方のカナコさんは、大学の文学部を卒業して、大手コーヒーチェーンに就職。店長を務めた後、東京のゲストハウスで女将として働いた。そして、そのカナコさんとアズノさんは、ツイッターで南米の旅行情報を交換するうちに親しくなったそうだ。
「夫はハード面からいい空間とは何かを考え続けて、私はソフト面からいい空間とは何かを考え続けてた。だから、一緒にできるねということで、一緒に仕事を始めました」
というわけで、文学部、芸術工学部、設計、コーヒー、料理、ゲストハウスなどの諸々の知識や経験が詰め込まれたmedicalaが誕生し、二人の旅が始まった。カナコさんは、最初は工事現場に入ったこともなければ、設計や施工の知識もなかったが、今や「なんでもやります。解体も!」という頼もしい存在である。

川内 有緒